2人が本棚に入れています
本棚に追加
そして、しばらく経った頃、思い出すように老婆がつぶやいた。
「もうそろそろ、インクも乾いたかねぇ……」
「えー。もう終わり?」
少女は不満を口にするが、老婆は紙に指を滑らせ、インクが付着しないことを確認すると、回覧板を少女に手渡した。
「また、おいで」
「はぁい」
縁側から庭へ飛び出した少女は、回覧板を片手に老婆へ手を振る。
「またね、おばあちゃん!」
「しょーちゃん、またね」
別れの言葉を聞いた少女は、あっという間に獣道に消えた。
その小さな背中が見えなくなるまで、老婆は手を振り続けた。
一方、少女は回覧板を小脇に抱え、山道を駆け下りる。途中にある我が家を通り抜け、更に遠くの家へ向かう。
山道を駆け下りた先にある内村家の前で、先と同じく声を張った。人の気配が無いのを察し、少女はポストに回覧板を差し込む。
これで、今日の任務は完了である。
ふぅ、と息を切らしながら、少女は改めて家路につくのであった。
最初のコメントを投稿しよう!