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「そうそう、小次郎に朝、魚の缶詰を早速食べてもらいました。嬉しそうに食べていました、ありがとうございます。」
「いいんです、昨日は本当におれが部長独り占めしちゃったんですから!てか小次郎、おれ家にお邪魔したときしか会えてないんですけど、嫌われてるんですかね。。」
小次郎はたぶん、警戒してるんだと思う。
「小次郎には会いたければここに頻繁に顔出さないとなかなか警戒解いてくれないかもしれませんねぇ。」
「えっ!それって、おれまた来ていいってことですか?!!」
「残念ながらそうとは言ってませんよ、ふふ。」
松下くんが頻繁にうちに来るなんて、冗談でも…戸惑ってしまうし、ソワソワしてしまう。
「えーーー本当に大変残念です。。」
おれ、またこの卵焼き食べたい…。とモグモグしながら不貞腐れた顔を作ってる松下くん。
なんてことないご飯だけど口にあって何よりだ。
洗い物はできます!って言うのでお言葉に甘えて洗ってもらう。私は縁側に出て、外の空気を吸いながらこの後について考えていた。
松下くん、帰りますか?
松下くん、今日はこの後どうしますか?
松下くん、せっかくなのでどこか出かけますか?
…松下くん、夜も一緒にまた食べますか?
松下くんといると、いつも心が暖かくて、楽しいと感じる。その反動で、最近こんなにも1人が静かなんだと、ふと感じてしまう。
本音を言えば寂しい、と感じている。
日頃は慕ってくれているだろうと思うが、
休みまでは遠慮したいと思ってるかもしれない。
もし、私が夕飯まで誘ったとしても
少し抵抗されるような素振りがあったら正直つらい。
このまままた月曜日、とするべきか。
…いい歳にもなって、本当に決断するのが苦手で失笑する。色々頭の中で何パターンか想定したり、言い訳を考えたり。
「部長、洗い物終わりましたー!あれ、部長?どこですか?」
私は座ったまま窓をコンコンと叩き、中にいる松下くんに手を振る。
松下くんはこっちに来て、
縁側だ!と嬉しそうにして私の横へと腰掛けた。
「洗い物ありがとうございました。」
「全然です!ご飯ありがとうございました、美味しかったです!あ、それより部長、おれひとつお願いがあるんですけど…!」
「お願いですか?なんでしょう。」
「おれ、今日夜ご飯まで一緒に食べたいです!もし良ければ!あっ、でも、今日は絶対帰りますから!ご迷惑はお掛けしませんので…!」
私はぐるぐると考えていたのに、彼はいつも素直に口にしてくれる。そう言うところが、好きだなと思う。
私はいつからから、彼を特別に思っていることは自覚していた。ランチに誘われるのは嬉しいと思うし、彼が一生懸命になって仕事に取り組む姿は、常に視界に入ってくる。どうってことない会話も、楽しいと感じる。
私を慕ってくれていて、可愛くて仕方がないのだとそう考えていた。ひとまわり以上違うのだから。
でも昨日は、ただの部下と仕事終わりにご飯へ行く、というよりかはもう遥か昔に感じたことある、初デートのような気持ちだった。
終電を逃した彼を家に誘ってしまい、家に着くまで緊張した。寝る支度をしてる間は何も考えないように努めた。
布団に入り、いよいよ私は彼のことを意識してると実感してしまったのだ。これは恋心だと。
でも、分かってしまったから何となくスッキリもした。長く生きていると、冷静に判断して行動できてしまう。
この気持ちは誰にも気づかれないように。
上司と部下として、ずっと仕事ができるように。
ひとまわりも離れた、今年42歳の、中年男性なんかの想いは蓋をするべきである。
松下くんが、一緒にご飯作って食べたいと言ったのでそのあとは買い物に出かけた。冷蔵庫も色々空になっていたので私は普通に自分の買い出しもした。
夕方、早めに支度をはじめて、鍋にした。
松下くんは野菜を頑張って切ってくれた。家に包丁がない!と言っていたこともあり、凄い真剣に野菜を切っていて、笑ってしまった。
缶ビールを1本ずつ買って、乾杯しながら鍋をして。
締めには雑炊。ご飯を入れて、少し味を整えて。卵を落としたらネギを散らして完成。
私も松下くんも、一人暮らしだから鍋なんて食べる機会がなかったため、2人して鍋良いねって決めて。
特に凝ったものではないけど、とても美味しくて楽しい夜となった。
松下くんは20時くらいに彼の家へと戻って行った。
また月曜日。
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