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「小倉部長ー!俺1時に戻ってくるんで、そしたら俺とご飯っ!いきません?」
そう誘ってくれたのは部下である松下くん。
松下くんはこないだの、雨の日に起きたトラブルで、次の日も少し元気がなかったけど、今は元どおりになっている。
本当によかった。
「ええ、いいですよ。しっかり営業、頑張ってきてくださいね。」
「はい!ありがとうございます!それではいってきます!」
私はいってらっしゃい、と声をかけて彼を送り出す。
彼は外出の度に私のデスクまで来て声をかけていく。そして見送る。営業事務の長澤さんが、そういうのは家でやってくださいって言ってたけど、どういうことなのか分かっていない。
そう、雨がなかなか止まなかったあの日。
松下くんは会社の携帯を水没させてしまったことで、一応始末書を書くことになった。生憎予備の携帯もなく、手配するまで、電話はオフィスに。極力要件はメールで、というように各取引先にも伝えて頑張っている。
私にはプライベート携帯の電話番号とスマートフォンアプリで良く使っているLINEを教えてくれた。
今まで知らなかったのか、って思うけれども平日毎日顔を合わせているし、営業の個人携帯もあるため必要なかったようなものだ。
それに上司からプライベートの連絡先を理由もなく知るのも変な話しというものだ。
松下くんは帰社予定時刻や追加アポイントでそのまま直帰するときなど、必ずオフィスへ電話を入れる。そして何故か、そのあと必ず私個人にも連絡が入るようになった。
ポン。
ほら、彼からのメッセージが入る。
" お疲れ様です。今商談終わりました!少し早く終わったので12時40分くらいには駅に戻れそうなのですが、良ければ駅の近くのイタリアンでランチしませんか?"
イタリアンか。最近は居酒屋ランチの定食とか丼ものとかだったから、言われたら凄く食べたい気がしてきた。
" お疲れ様です。分かりました、イタリアンいいですね。それではその時間に駅の改札口で。"
そして私は12時半ごろにお昼に行ってきます、と長澤さんに声をかける。
「あれ、松下とランチするんじゃなかったんですか?あいついじけますよ、連絡なにか来たんですか?」
「はい、松下くんが駅で食べようって誘ってくれまして。待ち合わせてご飯食べにいってきます。」
「わざわざ駅で待ち合わせのランチですか!部長優しすぎません?じゃあ松下も部長も1時半戻りってことで営業ボードに書いておきますね。」
「ありがとう長澤さん。イタリアンだって、私も少し楽しみです。いってきます。」
行ってらっしゃいという声を背に駅へ向かう。
長澤さんも誘えばよかったかな?なんて歩き始めてからふと思う。いや、彼女はいつもお弁当持ってきてたもんな…。でも機会があれば声かけてみよう。
「小倉部長ー!お疲れ様ですーー!」
駅の交差点まで来たら、向こう側で松下くんが手を振って叫んでいた。恥ずかしいからやめて欲しいと信号を渡ったらすぐ言おう。
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