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4.
太一は静かに旅立った。
奈湖は太一の遺した機材を使って、星空の写真も撮るようになった。
一人で山に登り、機材をセッティングして、夜空を撮る。
煌めく星空と太一は、奈湖の中ではワンセットなのだ。
奈湖はずっと仕事を続けている。
写真にも、文章にもオファーはあるので、打ち合わせにも出かける。
カフェで打ち合わせのために手帳を開くと、ひらり、と挟んであった写真が舞う。
太一が撮った、初めて一緒に山に登って撮った空の写真だ。
『ねえ?奈湖、俺の希望、分かる?』
『希望?なぁに?』
『奈湖が幸せだなぁって、思ってくれるのがいちばん嬉しい。あの時、俺が君の立場だったら、って言っただろう?俺も同じ言葉を返すよ。奈湖が俺の立場なら?俺の幸せを願うだろう?』
もう、言葉を発するのもやっとだった太一が、ゆっくりと奈湖に伝えた言葉。
──幸せ、だよ?今でも。
星空を見ていると、太一のことを思うのだ。
『その光が何百年前のものだ、なんて、気が遠くなる。』
『じゃあ、もしかしたら、今見えているこの星とか、今はないかもしれないの?』
あの時の会話。
たった今はもしかしたら、ないかもしれなくても、確実にあって、それは、輝いていた。
そして、光を届けている。
それは間違いのないことだから。
END
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