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原田奈湖(はらだなこ)は、肩から掛けた重いカメラバッグを下に降ろし、大きく息を吐いた。 白い息がふわりと舞うのを見て、奈湖は微笑む。 冬の空気は澄んでいて、清々しい。 奈湖の仕事はフリーアーティストだ。 大学を卒業してから、就職したのは出版社。 本を読むことが好きだったから。 少しずつ仕事に慣れた、そんな頃、奈湖は一人の男性に出会った。 同僚だった彼は、仕事の上でもプライベートでも奈湖に色んな事を教えてくれた。 けれど、 彼には妻子がいた。 それでもいいと思っていたけれど、彼と彼の家族が待ち合わせしているのを見てしまったのだ。 『パパーっ!』と彼に、抱きつく女の子。 奥さんは儚げな綺麗な人だった。 目の前が暗くなった。 分かっていたはずの事なのに。 もう、こんな事はやめよう。 彼は同僚で、接点も多かったし、彼からの影響も大きかった奈湖は、退職を決意した。 退職を伝えると、編集長からは 『本が好きなのに、もったいないね。けど、君は文字や表現から離れられる人ではないよ。』 と言われた。 それは事実だ。 その後奈湖が退職した、と聞いた出版社の人が、小島さんに向いていると思います。と、仕事を一つ持ち込んでくれた。 今にして思えば、編集長が紹介してくれたのだろうと思う。
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