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「うそ…、だって、すごく頑丈な人です。スポーツだってやっていたし、今でもカメラバッグ背負って、山登りもするんです。そんなの…」 「スキルス胃がんには、生活習慣はあまり関わらないんです。」 「どうして、どうして…?」 「分かりません。けど、決めていかなくてはいけません。奥さん。大丈夫ですか?他の家族を呼びますか?」 そう聞かれて、奈湖は泣いている場合ではない、と思い直す。 私が太一の家族だもの。 「…っ、ごめんなさい。大丈夫です。聞きます。」 「すみません。酷な事を言って。けれど、大変なのはこれからです。本人も辛いでしょうがご家族も大変に辛い思いをする事になります。僕らは力になります。あなたは一人ではありません。」 「よろしく、お願いします。」 「告知はどうしますか?」 目眩がしそうだ。 「皆さん、どうされるんですか?」 「それぞれです。お側にいらっしゃるご家族が、いちばんご存知だろうと思うんです。」 「治療って、どうするんですか?抗がん剤とか、放射線治療とかなんですか?」 「それをしても、延命にしかなりません。ご本人がどうしたいか、です。」 だましだまし治療をする、なんてきっと察しのいい太一には、分かってしまう。 それは無理だ。 「告知をしてください。」 一緒に、いるから。 どれだけつらくても、苦しくても、絶対に側にいるから。 ただ、ひたすら出てくる涙を拭うことも出来ずに、まっすぐ前を見て、奈湖は医師に告知を申し出た。
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