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その後、奈湖と告知を受けた太一の反応は、静かだった。 「余命はどれくらいです?」 「個人差がありますが、数ヶ月ではないかと。」 つまり、一年はもたない。 「延命はしません。緩和ケアを希望します。」 太一の、きっぱりとした言葉には医師も驚いている。 「もちろん患者さんの意思が最優先ですが…」 「俺、父をガンで亡くしているんです。その時はありとあらゆる手を尽くしました。家族もつらくて、きっと、本人も辛かったはずだ。その時、決めたんです。もしも、俺がそうなったら、延命はしない、と。」 太一の意思は固く、それならば、と病院も緩和ケア専門病院を紹介する、と早めに対応してくれることになった。 病院の外に出て、太一が繋いでいた奈湖の手を緩やかに離す。 「奈湖…離婚しよ…」 「いやよ。」 「でも、多分、もう俺は生きられない。あと1年ももたない…」 「一緒にいるの。そう決めたの!だから、結婚したのよ。太一、逆だったらどうするの?あなた、私と離婚するの?」 「しない!出来るわけがない!奈湖、君のことだけが、俺は心配なんだ。」 「お願い。これからきっとまた大変な思いをするかもしれない。けど、その時は考えて?もし、あなたが私の立場なら、どうするか。太一はきっと私の側から離れないわ。でしょう?だから、私も離れない。」 奈湖は太一に、ぎゅうっと抱きついた。 太一が奈湖を抱き返す。 「奈湖…愛している。」 「私も。」
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