1.

2/2
前へ
/14ページ
次へ
それは小さなコラムの連載で、他愛のない小さな事に写真と文章を付けるものだった。 奈湖の記事は、とても安らぐ、とか、心がほっとしました、と言ってもらえた。 それが自分を生かしてくれたのだと今も思っている。 そして、そういう小さな事を書くことが好きなんだ、と気づいた。 道端の小さな花だったり、公園でベンチに座っているネコだったり、朝露に濡れる朝顔だったり…。 そうか、そういうのを書きたいんだ。 奇しくもあの時の編集長の言葉は、今の奈湖を言い表していた。 彼とは、その後、どれほど連絡をしてきても、奈湖は一切会わなかった。 部屋の中にあったものは全て捨て、連絡先は消去した。 それでも、彼と過ごして良かった事もある。 山を歩くことを教えてくれた事だ。 それは、登山と言うほど本格的ではないけれど、山歩きの中では、かなりスポーツ寄りのものだった。 おかげで奈湖も山歩きが好きになった。 綺麗な風景も、歩いていくうちに、歩くことに集中して、頭が空っぽになってゆく瞬間も。 だから、彼と別れた後も山を歩くことは止めなかった。 そこで見つけたものを、文章や写真にする事で、奈湖自身も元気を蓄えられた。 そうして、少しづつ立ち直っていったのだ。 太一と会ったのはそんな時だ。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

464人が本棚に入れています
本棚に追加