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「あれ?小島じゃね?」 ちょうど、撮影を終えて、山から降りてきた時、麓で声をかけてきた男性がいたのだ。 当時は小島奈湖だった。 「原田?!うわ!久しぶりだね!」 原田太一(はらだたいち)は高校の同級生でクラスメイトだ。 野球とかチームスポーツをやっていそうなのに、太一は陸上部だった。 高校の頃、取り憑かれたように本を読んでいた奈湖は、連日、図書室で本を読んで帰るのが日課で。 その図書室からは、グラウンドが見える。 同じクラスだし、名前も知ってはいたけれど、明るくてクラスでも人気者だった彼との接点はなかった。 けれどたまに、図書室の窓から彼が練習している姿を見るのは好きだった。 何度もトラックを走っているその姿を見て、何を考えて走っているのだろう、と思って。 その日はたった1人、太一は靴箱の前にいた。 帰ろうとしていた奈湖に 「小島、今帰り?」 と話しかけてきたのだ。 今まで接点がなかったから、急に話しかけられて驚いたものだった。 「うん。原田は部活終わったの?」 「そう。小島も?」 「ううん。図書室にいたの。」 「図書室?」 その時の太一の顔は眉間にシワが寄り、図書室を初めて聞いた人のような顔をしていた。 思わず笑ってしまった奈湖だ。
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