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2 招待状とオリバー・ブレット・3世
不思議な招待状は知らないうちにランドセルに入っていた。
2020年(令和二年)6月29日 23時40分、東京駅丸の内南口改札前に集合されたし。
山田剛殿 黒猫拝
東京駅なんて行ったことないし、夜には出歩けるわけもない。
それに黒猫拝って何のことかな、と考えながら剛は招待状を机の引き出しにしまった。
6月29日 目覚まし時計は23時30分を指していた。
なにかが起こるかな、と気になって起きていたけど、何も起こらなかった。
特別な日になるかと思ってたけど、ならなかった。
ママはさっき帰ってきてお風呂だ。
はぁ
大きなため息をついてから剛はベッドのなかで目をつぶった。
にゃにゃにゃにゃ。
耳元で猫が鳴いた。猫?
目をあけると巨大なドーム屋根の下にいた。銀色の柱が丸い天井を支えている。床はぴかぴかで薄茶色の模様が床の中心から四方八方に伸びている。
僕はびっくりしてぽかんと口をあけた。
にゃにゃにゃにゃ。
足元にするりと何かがまつわりついた。
「ねこ」
「ねこではない。名前がある」
しゃべった! 夢に違いなさそうだけど、やっぱり名前を尋ねるのは礼儀だと思う。聞いてほしそうな顔してるし。
「何ていうの」
「オリバー・ブレッド3世」
「は?」
「オリバー・ブレッド3世」
ねこは心持ち胸をそらしたように見えた。どうみたってタマとかクロとかそんな感じにしか見えない。
「かっこいい名前だね。で、どうして僕はきみとここにいるんだい」
にゃにゃにゃにゃにゃ
にゃが一回増えた。
「だって、剛は願ったでしょ」
オリバー・ブレッド3世はぶるんとひげを震わせた。
「その望みを叶えてあげようと思ってさ」
ついてこい、というように、長いしっぽをぴんと立てて、ずんずんと自動改札に向かっていく。
「ちょっと、僕 お金持ってないんだけど」
しっぽが左右に振られた。問題ない、っていうことかな。
近づくと、自動改札は全て緑色。身体を狭い通路にいれてもバタンと扉がしまることはなかった。お店はもう全てシャッターを降ろしていて、駅構内には人がいない。
改札を通って左へ伸びる通路を歩いていく。とある場所でオリバーはちょこんと座って、にゃ、と右の前足で煉瓦の壁を触った。
ぎぎぃと重々しい音をあげて、壁が横にスライドした。
「わあ」
天井に等間隔に釣られた大きなシャンデリアの眩しい光が剛をつつむ。赤いじゅうたんがずーっとまっすぐに伸びている。
オリバーはずんずん進む。
ホームになった。電車が止まっている。前方で白い蒸気がときおりしゅぅっと吹き出している。
「電車じゃない。これ汽車? 蒸気機関車?」
「剛はよく知ってるな」
「一度乗りに行ったんだよ、パパと。えっと真岡っていうところまで。ママが作ってくれたお弁当をもって」
「銀河にも食堂車はついているぞ。メニューには「ママの卵焼き」もある」
「うそぉ」
かなり興味がでた。それに銀河っていった。銀河?
だだだっと剛はホームの前方にかけていった。ぴょんぴょんと黒猫が後を追う。
黒黒と輝く蒸気機関車が静かに蒸気をときどき吹いている。しゅうう。
「わああ」
「さあ乗った乗った」
ぴんとしっぽを振り立てて二本足で立ち上がったオリバーは小さな両手で剛を押した。
「しゅっぱあつ」
車掌さんの声が響いた。
ガッタン。しゅううううううう
汽車がゆっくりと動き始めた。
ぽおおおおおお
汽笛が響く。だんだんと速度があがっていく。
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