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満天の星を雲が隠していく。ざわざわと不吉な音をたて黒い塊が空という空をあっと言う間に覆い尽くし辺りを闇に染めていく。
闇を映した瀬衣の口から昏い息がこぼれると、またたく間に天からたくさんの涙があふれ、素瀬の里を涙に浸す。さすれば川も増水し舟は夏佳を乗せたまま一息に流された。
香々はすっかり駄目になってしまった足を引き摺りながら瀬衣を探す。
「瀬衣? 瀬衣、セイっ! どこ?」
天の涙によって視界不良の中、香々は昏い影を感じ取り、惑う里人の隙間を縫って瀬衣の元に辿り着く。
瀬衣の瞳を見た香々は愕然とした。いつも瀬衣の瞳にある星が失われていたのだ。
「セイ、さま……」
香々は何年経っても小さなままの瀬衣の身体をきゅっと抱きしめる。愛しい我が子同然に頭を撫でて何度も何度も瀬衣の名を呼んだ。
「セイ様、セイ様、どうかお気をお鎮めください。わたくし共が悪う御座いました。セイ様のお力を勝手に搾取していたのは身共で御座います。どうかお許しください。セイ様――」
瀬衣は覚えのある温かい腕の中で自分を思い出していた。
――そうだ、わたしは……
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