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(と)帰昇
瀬衣は未だ闇に呑まれていた。瀬衣の胸の内に落ちた黒い石は地上で浄化することはない。
「母さんは、母さんだよ。どこにいても私の母さんだよ?」
香々の胸の内を察した瀬衣が闇に堕ちた心を圧して、皺だらけの香々の首に縋り付き、幼き童のように母を求める。
「セイ様、……セイ、……瀬衣っ!!」
いつもそうしたように皺だらけの手に力を入れれば、腕の中に収まる瀬衣の重みは不変で、温かさも匂いも、いつもと変わらない。
香々にとって瀬衣は神子などではなく、我が子同然であった。愛しい愛しい我が子の心が闇に堕ちて悲しまぬ母はいない。
「ごめんよ、瀬衣。機織りなんてしなくていいって言うのは、瀬衣には仕事なんてせずいつも楽しく笑って過ごしていて欲しいと思ったからなんだ。そりゃ我が子が自分の後を継いでくれるのが親は一番嬉しいさ。今更だけど瀬衣の気持ちを蔑ろにしてごめんよ」
瀬衣はそれに首を横に振る。気にしなくていいんだ――とでも言うかのように。
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