(い)天女

1/1
前へ
/18ページ
次へ

(い)天女

夜空に浮かぶ星が瞬くほどに、 地上の川にその煌きが写し取られて行く。 天を仰げば一杯に広がった輝きに見惚れ、 水面を見下ろせば自らも星の瞬きに呑み込まれて行く。 星の川を舟が行く。 舟には美しき天女と輝く生糸を乗せて。 天女は星の煌めきを受けた衣をそよがせ、曼珠沙華の色と同じ紅を刷く。 人々は是れ、総ては天女の御業(みわざ)であると畏み申す。 その様を瀬衣(せい)は目と口をぽっかりと開いて見つめていた。 その口はまるで全ての星星を吸い込むかのように。また、その目は星星を瞳に焼き付けるかのように。 女童である瀬衣には一年に一度のそれがとても美しく見えていた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加