星を捨てた日

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なんとも私らしくないことをした。これはきっと、蠍の毒にあてられたのだ。気分が晴れないまま一日の仕事を終え、夜更けの家路を急いでいるときだった。ふと空を見上げると、青いダイヤのようなスピカが空に上っていくのが見えた。 ああ、あれこそ私が欲しかった青い星!私は思わず駆け出して、スピカのある生活を想像した。朝目覚めたら一番に、薄荷の香りを嗅ぐだろう。たまに星の表面をすこし舐め、その冷たさを楽しむだろう。夜には青白い光を眺めながら、穏やかな眠りにつくだろう――。 そうしているうち、青白い星は雲に隠れて見えなくなった。おそらくあれの持ち主は、うっかり手を滑らせてしまったに違いない。私は激しく同情したが、夜空に浮かぶあのスピカこそ、最も美しいのではないかと思い至った。 私は永遠にスピカと出会えないのかもしれない。しかし彼女はいつも空から、私のことを見守っている。遠くで雷の鳴る音が聞こえ、ぬるい雨粒が落ちてきた。傘をさすと、内側に描かれた乙女座が微笑んでいた。
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