星を捨てた日

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琥珀色のパラフィン紙で幾重にもくるまれた星を買った。 不愛想な店主に軽く挨拶をして店の外に出ると、インバネスに湿った空気がまとわりつく。朝の太陽は雲に隠れ、冷たい霧雨が降っている。不意に肩を叩かれて振り向けば、店主が無言で黒い蝙蝠傘を差し出した。 店主に借りた傘をさすと、春の星座図が描かれていた。明け方の町に人影はなく、私は眠気覚ましの薄荷飴を口に入れ、包み紙の青いセロファンを通りのゴミ箱に捨てた。仕事場への道すがら、先刻買った星を取り出した。 包まれている星はランダムで、開けてみるまでわからない。 何度か購入しているが、めあての青い星だけ当たらない。私は小さくなった飴をごくりと飲み、待ちきれずにパラフィン紙をはがした。やがて外気に触れた星が光り始めるのを見て、今度は舌打ちを飲み込んだ。 それは何度も引き当てた、赤く輝くアンタレスだった。たいしてめずらしい星でもないが、アンタレスばかり集めるコアなコレクターもいるらしい。 しかし私はバラの香りが嫌いだし、燃えるような赤い光は挑発的で落ち着かない。そう、こうして見つめているだけで、いつまでも青い乙女に出会えない不運に怒りが募る……。 静かな通りに破砕音が響く。気がつけば、私は石畳にアンタレスを叩きつけていた。驚いた鴉が飛び立つ音で我に返り、慌てて星屑をかき集めると、パラフィン紙でぐしゃぐしゃに包む。踵を返してゴミ箱まで戻り、それを勢い放り込むと、足早にその場を立ち去った。
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