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西日がかなり傾いた頃泥だらけになって帰ってきた僕たちをメアリーが叱った。
「お坊っちゃまも、お召し物がこんなになって……」
「ごめんなさい」
全寮制の学生になった僕は、授業での運動の時間以外は本を読んで学友の賑やかさを楽しむ人間になっていた。久しぶりに野原を駆けずり回り、藪の中を膝ついて進むなんて初めてだった。ティアを追いかけて靴のまま川に入ってしまった。
「まあまあ、せっかく田舎に来たのですから。ティアはレイフに良い案内をしたわね。お洋服も小さくなってきたから、それは汚れても良い時の服にしなさい」
お祖母さまは、泥だらけの僕たちを楽しまれて、夕食は遅い時間になってしまった。それはメアリーには迷惑な話だった。
「今夜は家に帰ろうと思っていましたのに」と、メアリーは食後の片付けをしながらボヤいた。お祖母さまはクスクスとお笑いになった。
「まぁ、メアリーたら。お化けなんかこの屋敷にいないわよ」
「奥さまはお耳が遠いのでございます。廊下にすすり泣く声が聞こえるんですよ。私はこの耳で聞いたのでございます」
「へぇ……」
正直、僕は信じていなかった。学生寮にもお化けネタで七不思議があって、肝試しは学友に誘われて試した事もある。
「僕は会ってみたいな、そのお化けに。何で泣いてるのって聞いてみたい」
「まぁ、お坊っちゃま。そんな危ない事をしてはいけませんよ。お見かけに寄らずヤンチャな事を」
丸いねずみの耳先をピクピクさせてメアリーはとても困った顔をした。先が細いしっぽで床を小さく叩いている。
僕はとても大人しい優等生枠だ。でも、今日は違った。僕はティアの顔色に興味があった。
「お化けなんかいない。私は会ったことないんだから」
強気な感じで、ティアは勇ましい声を上げた。
「ティアはまだ小さいから会った事がないだけかもしれないよ? 」と、僕はテーブルに頬杖して隣に座るティアに目を合わせると、ティアは顔を硬直させブルッと震えしっぽの毛を逆立たせた。
怖がらせ過ぎたかな……と、仲良くなれたと油断してからかい過ぎたかも知れない。彼女に嫌われると焦ったが、ティアはそれどころではなかった。
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