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僕は夏の間僕の部屋になる客間でなかなか寝付けなかった。窓のカーテンを開けて、ガラス越しに見える月をベッドから眺めていた。ティアと遊んでクタクタに疲れているハズなのに少し興奮していた。
お祖母さまは好きだけど、退屈な田舎での避暑が今年から格別なものになった。明日はティアと何をして遊ぼうなんてワクワクしながら、月明かりを頼りに持ってきた本を開いては閉じてを繰り返していた。
そんな時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「お坊っちゃま、レイフお坊っちゃま」
メアリーだ。大方、お化けのことかもしれない。僕は怖いどころか何かを期待していた。ドアを開けると、眉を八の字にしたメアリーが少し震えている。
「今夜はあちらの廊下から聞こえるのでございます……」
「今夜は? 」
「その夜によって、聞こえる場所が違うのでございますよ。今日こそ私の泊まる部屋の前ではと、不安なのでございます」
「……そうなんだね」
メアリーのしっぽもピリピリと震えている。僕にはそのしっぽが無いから少し羨ましい。人族って、本当につまらない。
「じゃ、僕が見に行こう」と、僕はランプに火を灯して手に持つと、メアリーの言う方へと暗い廊下を歩いた。確かに、すすり泣く声が聞こえてきた。
辿り着いた先は、キッチンの勝手口前だった。白くて小さい塊が床の上ですすり泣いている。ランプの光りを近づけると、それはお化けなんかじゃなくてシーツだ。そのシーツの端からはみ出して、ピクピクと床を撫でるものがある……ティアのしっぽだ。
「なんだ、ティアじゃないか」
「あらまぁ……」
「ティア? 」と僕が声を掛けると、ティアはゆっくりと立ち上がって、とぼとぼと歩き出した。僕たちに気がついていない。
「猫族も夜目が効きますからねぇ」とメアリーが言った。
「ティア」と、また声をかけたが反応がない。シーツをゆっくりと奪い取ると、シーツが引っ張られた方にティアが振り向いて、涙で頬を濡らしてシクシクと泣いているが起きてはいない。
「夢遊病ですかね」とメアリーは言った。そうかもしれない。
「寂しくないフリして無理をしていたんでしょうね。両親を亡くされて、奥様が引き取られた子ですから。強がって小さいなりに遠慮していたのでしょう」
お化けの正体が分かったものの、メアリーがどうしたものかと悩んだが、僕はティアの手を引いて、「ティアの部屋に帰してあげよう」と言った。
ティアは僕に手を引かれると、泣き止んで静かに彼女の部屋までついてきた。ティアを小さなベッドに寝かせようとすると、ティアは僕にしがみついた。
「あらまあ……。お坊っちゃま、ティアをお願いします。私は明日の朝が早いので」
「うん。寝付くまで僕が一緒にいてあげる事にするよ」
僕には弟も妹もいない。小さなティアはまるで妹が出来たみたいでとてもかわいい。夏だけの妹か。うちに連れて帰れたら良いのに。小さいのにお祖母さまのメイドなんだよな……と、僕はとても残念に思った。
僕がベッドの縁に座って、ティアの頭を撫でてティアの目がしっかりと閉じるのを見守った。柔らかい髪は陽だまりの匂いがする。まるで天使だ。
また夢遊病を起こしたらと思って動けないでいると、僕も眠気に襲われてそのまま朝までティアの横で寝てしまった。
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