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私はまたいつものように、空腹を抱え、たいした路銀も持たないまま、新たな町へ移った。
いつもと変わらない小さな田舎町なのだが、その町には不似合いな程の人々で溢れかえり、町は異常な程に活気付いていた。
「今日は、ここで何かあるのか?」
私は一人の男に声をかけた。
「なんだ、あんた、知らずに来たのか?
今夜は、エスポワール一座のショーがあるんだよ。」
「エスポワール一座?」
なんでも、そのエスポワール一座なるものはとても人気があるらしく、中でも踊り子のレティシアは踊りがうまいだけではなく大変な美貌の持ち主で、レティシアを目当ての男性客を中心にいつも小屋は満員だということだった。
私も歌や踊りは嫌いな方ではない。
いや、正直言うとそういうものを深く愛していたのだが、人間のものなど高が知れている。
わざわざ見に行く程のこともないだろう。
この乏しい財布の中身を考えると、私には見物料さえもったいなく思える。
しかし、私はそこでハタと思いあたった。
そうだ!
その一座で働かせてもらえば、あちこちの町に行くことが出来るのではあるまいか?
町に着く度に仕事を探し回る手間がはぶけるのではないか、と。
それに、一座が来ればたくさんの人々がそのショーを見に来る。
私の片割れが見に来る可能性も高いのではないだろうか?
見に来なかったとしても、人が集まる場所は情報を聞きこむのにはもってこいの環境だ。
そう考えた私は早速一座の元へと急いだ。
夜のショーに備え、舞台裏では大勢の人々が慌ただしく作業をしていた。
「何?ここで働きたいだと?
見た目は悪くないが……おまえ、何が出来るんだ?」
座長と呼ばれる男は、不精髭を生やした恰幅の良い中年男だった。
「何がといわれても…
大工作業はしたことはないが、教えてもらえればやれると思う。
それに、簡単な料理も出来る。」
「なんだ?おまえ、下働きがしたいのか?
……残念だが下働きなら間に合ってるよ。」
「そこをなんとか頼む!
力仕事でもなんでもやる!」
「だめだ、だめだ!
力仕事ならおまえみたいに生っ白い奴より、もっとがたいの良い奴を選ぶよ。」
座長は私に向かい、まるで野良犬でも追い払うかのような手振りをした。
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