第1章…地上へ

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(そうは言ってもこのままでは埓が明かない。 もう少し、効率の良い方法を考えなくてはな…) いくらなんでもこんなことになるなんて、あの時の私は思ってもいなかった。 私は、実は人間ではない。 いや、今は人間に近いものなのかもしれないが、元々は天上界に住まう者だ。 人間の感覚で言うと「天使」と呼ばれるものなのかもしれない。 その私が、今、なぜ、こんな生活をしているのか… それは、創造主の私に対する嫉妬と誤解のため…と、考えるのは不遜なことなのだろうか? 私は、天上界でも特別に優れた力を持っていた。 創造主に勝るとも劣らない強大な力を…… 私は、以前から地上に住まう「人間」と言う存在があまり好きではなかった。 天界からのぞく地上の生活は、非常に利己的で醜いものだったからだ。 自然を破壊し、平気で同族を傷付ける。 無論、全部が全部そんな人間ではないのだが、善なる者よりは圧倒的に悪なる者の方が多いと感じられた。 私はある時、創造主に提言した。 大半の人間を地上から失くし、また新たに世界を作り上げようと。 今度こそ、善なる魂を持った人間達による清らかな新世界を作り上げようと。 私の力で地上を少し揺らしてやるだけで、人々はすぐにその数を減らす。 そんなことは、私にとってはたやすいことなのだ。 しかし、創造主は首を振った。 人間はおまえが思っているほど悪い者ではない。 とても可愛い者達なのだと言って目を細めた。 ……人間が可愛い? それは私には到底理解出来ない言葉だった。 私は思った通りのことを、創造主に告げた。 すると、創造主は微笑み「おまえには力はあるが、経験が足りない」と、言った。 そして、「経験は時として、力よりも勝る智恵を授けてくれるものだ」とさらに続けた。 私は創造主のその言葉が癇に障った。 「私には智恵がないとおっしゃるのか?」 「ない…とは言っておらぬ。 経験がないから、まだ未熟な部分があると言っておるのだ。」 「あなたは、私のことをおわかりではないようだ。 私はあなたが考えておられるよりも、ずっと思慮深い。」 「そうか……」 創造主は落ち着き払った態度で、静かに微笑んだ。 どこか私を憐れむようなその視線は、私をとても不快にさせた。 「ならば、おまえにどれほどの智恵があるのかを見せてもらおう。 おまえが見事その試練を乗り越えられたなら、人間界の再建をおまえに委ねようではないか。」
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