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創造主がそう言うと、私の目の前にはもう一人の私がいて、私と同じように驚いた表情で私をみつめていたのだ。
「な、なにを…!」
「そう驚くこともあるまい。
ただ、おまえの身体を二つにしただけだ。
それと、今のおまえは人間と同じく無力だ。」
「な、なんで……あっっ!」
呆気に取られている私の目の前で、もう一人の私が突然姿を消した。
「なに、とても簡単な試練だ。
おまえは地上でもう一人のおまえをみつけだしさえすれば良いのだ。
二人が出会い、手と手を会わせれば、元の一つの身体に戻れる。
もちろん、その強大な力も寸分違わず元の通りになる。
……では、楽しみに待っておるぞ……」
創造主の微笑みが消えたと同時に、あたりの景色は一変した。
一言の異義を唱える暇もなかった…
これといった建物も何もない田舎道の真ん中に私は立っていた。
私は地上に送られたのだとすぐに理解した。
私の髪は深い蒼色に変わっていた。
身に付けているのは…ごく普通の人間の服装か…?
ここが一体どこなのか、もう一人の私とどれほど離れているのか、何一つわからない。
仕方がない…
賽は投げられたのだ。
私は、とにかく少しでも情報を得るため、人間のいる所へ行こうと、道なりに進んで行った。
しばらく歩いても何もみつからない…
人間のいる気配が少しもみつけられないまま私は歩き続けていたのだが、その時、私はあることに気が付いた。
足が痛むのだ。
それに、腹に違和感を感じる…
それは今まで私が感じた事のない感覚だった。
私は下等な人間になってしまったのだ…
そう思うと、言い様のない絶望感に襲われた。
しかし、ここで落ちこんでいても仕方がない。
休む場所を得るためにも、そしてこの空腹をどうにかするためにもとにかく人間のいる場所を見つけなければならない。
そうだ!
人間界では何かを得るためには必ずその代償を差し出さねばならない。
金や宝石といったものが一般的だ。
だが、私はそんなものを持っているのだろうか?
私は着ている物のポケットを探った。
そして、胸ポケットに小さな革袋があるのを見つけた。
袋にはなにかが入っている。
金かと思ったが、意外にも中から出てきたのはさほど輝きもしない青い石ころだった。
これを売って金に替えろということなのか?
『……いいえ、違います…』
唐突に青い石が語りかけて来た。
『私は創造主から仕わされた石の精霊です。
あなたの小さな力になるように言いつかっております。』
「小さな力?」
『はい、あなたの小さな疑問に答えたり、寂しい時の話し相手になったりします。』
寂しい時の話し相手だと…?
私もずいぶんと見くびられているものだと途端に不愉快な気持ちになった。
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