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周りの景色が一瞬のうちに変わった。
地上に着いたのだと私は悟った。
特にこれといって何も感じることのないのどかな風景…
とりあえず、都会ではないことだけはすぐにわかった。
自分の着ている物にも目を落とす。
これもまた取り立ててなんという事もない服装だ。
少し先に小さな泉があるのが見えた。
ふと、あそこで自分の姿を写して見ようと思い、斜面を降りようとした時、私は何かにつまづき足をくじいてしまった。
(……なんと無様な…)
ふだん、こんな風に靴を履き、地面を踏みしめて歩くことなど滅多にない。
だからこそ、こんなことになるのだ。
私は泉に行くのはやめた。
どんな容姿をしていようがさして重要なことではない。
初めて感じる足の痛さに私は思わず顔をしかめる。
最初からツイてないことだな…
こんな足で人間のいる町まで歩いていけるのだろうか…
そんなことを考えながら、私は道の片隅に座り込み、あたりに広がる景色をぼんやりとみつめていた。
実に退屈な風景だ…
たまに動くものといえば、空を飛ぶ小さな鳥と、ゆるやかな風になびく木々…
(さて、これから、どうしたものかな…)
そういえば、地上では町に着いても金がないと宿屋には泊まれない。
人間の世界では何をするにも金というものが必要なのだ。
無意識に胸のポケットを探ると、そこには小さな革の袋が入っていた。
中には金貨でも入っているのだろうと思ったら、袋から転がり出てきたのは黒い石ころだった。
とても高い値で売れそうには思えない石ころだ。
それとも、こんなものが人間界では価値があるとされているのだろうか…?
私は、石ころを手の平に転がし、まじまじとみつめていた。
『私は石の精霊です。
あなたの小さな力になるよう、創造主様から言いつかっております。』
「石の精霊?」
つまらないことを…こんなものより金貨にしてくれた方がずっと助かるのに…
『そんなことはありません。
私は金貨よりずっとあなたの役に立ちます。
まずは、創造主様からの伝言なのですが…』
黒い石ころは、私の心の中が読めるらしく、勝手にいろんなことを話し始めた。
いや、話すとは言っても私の心の中に直接伝えてくるのだが…
石ころの話によると、私の片割れはどこにいるかわからないだけではなく、同じ時代にいるかどうかもわからないらしい。
創造主も随分と手の混んだことを考えたものだ。
それだけ、私の力を畏れているということか…
そう思うと、どこか気分の良いものを感じた。
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