第1章…地上へ

8/10
前へ
/102ページ
次へ
さらに、私の身体は老いることはないが、その他のことはわからないと言われた。 石ころははっきりとは言わなかったが、それは、下手をすると死ぬこともあるということなのだろうか? あんな穏やかな顔をしていながら、なんと底意地の悪いことを… 私は創造主の顔を思いだし、笑いがこみあげてくるのを感じた。 まぁ、良いさ。 私は死んだりなどしない。 早いとこ片割れをみつけて天界に戻ってやろう。 (さて…と) とりあえずは、町へ行こう。 そう思い、私は立ち上がり歩き始めたが先程くじいた足が痛む。 (……困ったものだな…) 痛めた足をかばいながら、ゆっくりと歩いていると私の傍を一台の馬車が通り過ぎた。 気にもせずに歩いていると、少し行った所に先程の馬車が停まっていた。 私が馬車の脇を通りすぎようとした時、馬車の中から一人の女が顔を出した。 「足……どうかなさったの?」 声をかけて来たのは、あまり若くもなければ美人でもない女だった。 「ええ…少しくじきましてね…」 私がそう答えると、おもむろに馬車の扉が開いた。 「どうぞ、お乗り下さいな。」 私はその言葉に躊躇う事なく素直に馬車に乗り込んだ。 「ありがとう。助かりました。」 「どちらへ行かれるのですか?」 「それが…まだ決ってはいないのです。」 「こちらへはご旅行なのですか?」 「……まぁ、そんなもんですね。」 「では、町の宿屋へでもお送りしたら良いかしら?」 「それはありがたいのですが… 実はここへ来る途中に路銀を落としてしまいまして…」 特に明確な意図があったわけではないのだが、私は咄嗟にそんな嘘を口走っていた。 「……それはお困りですね…」 それっきり、女は話さなかった。 私も外の景色を見るふりをしながら、同じように黙っていた。 しばらくして、馬車は大きな屋敷の前に止まった。 「ここは…?」 「私の屋敷です。どうぞ、中へ。」 私は屋敷の中へ通され、しばらくすると入浴をすすめられ、足の手当てをしてもらった。 夜になると、食堂に通されもてなされた。 初めて口にした人間の食事はどれも予想外に美味いものだった。 酒というものも飲んだ。 初めて感じる心地好さに、私はすっかりこの飲み物が好きになってしまった。 女はヴィクトワールという名で、二年前に夫を亡くし、子供もなく、この広い屋敷に一人で住んでいるとのことだった。 だから、気を遣うことなく好きなだけいて良いと言ってくれた。 願ってもないことだ。 私はしばらくこの屋敷で厄介になることを決めた。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加