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さらに、私の身体は老いることはないが、その他のことはわからないと言われた。
石ころははっきりとは言わなかったが、それは、下手をすると死ぬこともあるということなのだろうか?
あんな穏やかな顔をしていながら、なんと底意地の悪いことを…
私は創造主の顔を思いだし、笑いがこみあげてくるのを感じた。
まぁ、良いさ。
私は死んだりなどしない。
早いとこ片割れをみつけて天界に戻ってやろう。
(さて…と)
とりあえずは、町へ行こう。
そう思い、私は立ち上がり歩き始めたが先程くじいた足が痛む。
(……困ったものだな…)
痛めた足をかばいながら、ゆっくりと歩いていると私の傍を一台の馬車が通り過ぎた。
気にもせずに歩いていると、少し行った所に先程の馬車が停まっていた。
私が馬車の脇を通りすぎようとした時、馬車の中から一人の女が顔を出した。
「足……どうかなさったの?」
声をかけて来たのは、あまり若くもなければ美人でもない女だった。
「ええ…少しくじきましてね…」
私がそう答えると、おもむろに馬車の扉が開いた。
「どうぞ、お乗り下さいな。」
私はその言葉に躊躇う事なく素直に馬車に乗り込んだ。
「ありがとう。助かりました。」
「どちらへ行かれるのですか?」
「それが…まだ決ってはいないのです。」
「こちらへはご旅行なのですか?」
「……まぁ、そんなもんですね。」
「では、町の宿屋へでもお送りしたら良いかしら?」
「それはありがたいのですが…
実はここへ来る途中に路銀を落としてしまいまして…」
特に明確な意図があったわけではないのだが、私は咄嗟にそんな嘘を口走っていた。
「……それはお困りですね…」
それっきり、女は話さなかった。
私も外の景色を見るふりをしながら、同じように黙っていた。
しばらくして、馬車は大きな屋敷の前に止まった。
「ここは…?」
「私の屋敷です。どうぞ、中へ。」
私は屋敷の中へ通され、しばらくすると入浴をすすめられ、足の手当てをしてもらった。
夜になると、食堂に通されもてなされた。
初めて口にした人間の食事はどれも予想外に美味いものだった。
酒というものも飲んだ。
初めて感じる心地好さに、私はすっかりこの飲み物が好きになってしまった。
女はヴィクトワールという名で、二年前に夫を亡くし、子供もなく、この広い屋敷に一人で住んでいるとのことだった。
だから、気を遣うことなく好きなだけいて良いと言ってくれた。
願ってもないことだ。
私はしばらくこの屋敷で厄介になることを決めた。
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