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数日経った頃には足の痛みもほとんど感じなくなっていた。
人間の身体には自然治癒力というものがあることは知ってはいたが、なにぶん、怪我をしたのも痛みを感じたのも初めてのことだったから、心の底には一抹の不安もあったのだ。
しかし、これでよくわかった。
致命的な怪我でなければ、必ず治るものなのだと。
足が良くなったのを機に、私は町の方へ私の片割れを探しに行くことにした。
ヴィクトワールも一緒に行くというので、好きにさせた。
そこは、それなりに賑やかな大きな町だった。
町を歩いていると、なぜだかあちらこちらから視線を感じた。
私の服装に何かおかしなところでもあるのだろうか?
ヴィクトワールは私を仕立て屋に連れていき、採寸をさせ勝手に生地を選んでいた。
どうやら私に服を作ってくれるらしい。
今の服にも特に不満はないのだが、なんせそれしかないので作ってもらえれば助かることは助かる。
屋敷では彼女の亡くなった夫の服を借りたりしていたのだが、それは私の体格にはぴったりとは言えないものだった。
私にはやや大きすぎ、逆に袖丈やズボン丈は足りなかったのだ。
屋敷の中ではそんなこともあまり気にはならなかったが、外へ着て出られるものではない。
だから、彼女は新しい服を作ってくれたのだろう。
結局、その日は買い物をしにいったようなもので、私の片割れを探すことは出来なかった。
一週間ほどして、屋敷にたくさんの服が届いた。
私の着ていたものとは比べ物にならない程上質な生地だということは、そのなめらかな手触りですぐにわかった。
私の着替はヴィクトワールが手伝うと言って、メイド達を下がらせた。
鏡の前で、私は人形のように次から次に服を着せ変えられる。
そのうちに、私はヴィクトワールの態度がおかしいことに気が付いた。
私をみつめる彼女の潤んだ瞳を見た時、彼女が何を欲しているか、私にはすぐに察しが付いた。
「ノワール…
あなたのほしいものは何でも買ってあげる……だから…」
ヴィクトワールは私にぴったりと身体を押し付け、耳元でそう囁いた。
「ノワール…
愛しているわ…初めて会った時からずっと…」
ヴィクトワールはさらにそうつぶやいて、私の唇に自分の唇を重ねてきた。
(……愚かな……)
私はそんな女の行動を心の中で嘲りながら、口ではまるで違うことを囁いた。
「私もだ……」
そして、私は、ヴィクトワールの欲望に応えてやった。
特にたいした理由はない。
人間達の行為にほんの少しの好奇心があったのと、今までよくしてもらったことへの礼…のようなものだろうか…
それだけのことだったのだが、それからのヴィクトワールは、なお一層私に献身的に尽すようになった。
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