泣いている孫へ

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『明道夏夫様にお目通り願えないでしょうか?』  父は突然思いも寄らなかった言葉を投げつけられたように面食らった顔をしている。 『生前夏夫様がよくお使いなられていたお部屋をお貸し頂ければ、短時間ではありますが夏夫様とご面会することが可能です』  母が警戒心に頬を固くさせて注意深く紙面に目を走らせる。 『花那様を守護される夏夫様の強いご希望を耳にする機会があり、居ても立ってもいられず不躾ながらこのような手段で連絡させて頂きました事、深くお詫び申し上げます。突飛なことを申してしまい大変ご混乱されているでしょうが、何卒御一考頂ければ幸いです』  花那は驚愕しながらも不思議と腑に落ちるような思いだった。  花那は景との会話の中で祖父の名前はおろか、自分の名前すら明かした憶えはない。にも関わらずこうして花那と祖父の名前を景が漢字すら当てて書き記すことができたのは、祖父の口から直接伝え聞いていたからだったのだ。
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