泣いている孫へ

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 浮かない顔でランドセルを背負いながらとぼとぼと帰路についていると「そこのかわいいお嬢さん、何やらお悩みのようね? よかったらこのお姉さんに相談してみない?」鈴が鳴るような声が耳を(くすぐ)った。  (うつむ)けていた顔を上げると烏の濡れ羽を思わせる(つや)やかな黒髪がさらりと微風に揺れ、虹色の光が帯びる黒瞳と目が合う。袖が着物のように長い純白のブラウスを着た小柄な女性だった。どこか浮き世離れした綺麗な顔立ちをしていて、一瞬花の妖精でも現われたのかと思った。 「お姉さん、誰……?」  気安く話しかけられたけれど当然面識はない。警戒心がほんの少し視線に現われる。 「私? 私の名前は桜守(さくらもり) (ひかり)。このご時世では珍しいかもしれないけど、夫と二人で気ままに旅人などをやっております。ほら見て」  景は自己紹介を終えると背後を振り仰いで、ここらでは結構有名な桜通りを指さす。
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