ハム・ハム美

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 とまあ、秘書になってから他の動物に見くびられないように、そして、私を認めて下さった神様に恩返しをするために、必死に様々なものを提案してきました。    “何かを変えていく”事は案外大変なもので、 私のように大変な思いしている動物や、他の種族に好意的な動物は大抵(たいてい)賛成して協力をしてくますが、同じ思いをしていても変わった先が本当に良いものかどうか不安な動物、これまで優位(ゆうい)に立っていて他の種族などどうでもいいと考える動物は、反対を(うった)えて協力的ではありませんでした。  神様の力で動物達の心や考え方を変えることは出来ませんが、施設や物を作り出す事が出来るので、作ってもらい、適材適所の動物に振り分けて、娯楽施設を作る事で、娯楽の良さを分かってもらい、協力者が増えて良い環境を作りやすくなりました。  一つ、また一つと環境が変わるうちに、誰も私を下に見て馬鹿にする動物は居なくなり、この改革の提案者であり、神様の秘書と言う事もあり、今では「ハム様」または「ハム美様」と尊ばれるようになりました。  私は生前、人間にペットとして飼われていて、尊ばれて可愛がられる事はあっても、敬遠される事はありませんでした。  神様から可愛がって貰えても、それは色々なアイデアを出すからで、この中間界を変える為の良き理解者であり協力者。  神様なので決して家族や友達などに分類してはいけないお方です。    いつだったか、神様も友達や家族という存在を羨んでいる事を私に話して下さいました。  神様の事は好きですが、残念ながら、この世界を(つかさど)る者として神様と私は友達にも家族にもなれません。  自分に()された仕事に(ほこ)りを持ち、今まで(つちか)ってきた力と、地位を得た事で少し孤独(こどく)を覚えて十数年。  いつもの様に、私専用の電動スクーターで各部署を視察している時。 「ちょっと待って〜!そこのハムスターさーん!」  私の事を知らないのだろうか、「ハムスターさん」なんて初めて呼ばれました。  振り返ると、深緑のオーバーオールを着た、薄茶の毛色のチワワに似た犬が走って近づいてきたので私は電動スクーターを停めて、返事をしました。  「どうかしましたか?あなたは確か……お盆教育施設に居た生徒ですね?」  「そうです!ハムスターさん。これ落しましたよ。」  「こ、これは…!!」      オーバーオールの犬が手に持っていた物は、電動スクーターの荷物入れに入れていたはずの、私の秘密のおやつ。  ストレスが溜まっていたのか、ご褒美おやつをパンパンに入れているのに、鍵が開いている荷物入れが見えました。  このお芋、自分へのご褒美として毎日食べている干し芋とは天と地ほど違います。先日神様が、秘書なった記念日としてプレゼントしてくれた、「一口食べると天にも昇る!悪魔的おいしさ!」で中間界で有名の()()最高級干し芋でした。  「あ……あ、ああ。わたしとした事がぁ……!!一生の不覚!ありがとうございます!!」  この最高級干し芋、知る人ぞ知る代物(しろもの)。マニアで無くても干し芋が好きなら誰でも知っている。最高級なのにいつも売り切れで、予約もなかなか取れない。誰もが(のど)から手が出るほど欲しがるもの。  それを私は……!!。  「……ぷ、ふふふふ。」   しまった。少々取り乱してしまいました。こんな失態(しったい)見下(みくだ)される原因になりかねません。しっかりしなくては。  「す、すみません、笑ってしまって。ふふっ……。物凄く好きなんですね、そのお芋。私の名前はハナです。ハムスターさん程ではないですが、私もお芋好きですよ。」  あれ、取り乱した私の姿を見たのに馬鹿にした口調ではありませんね。悔しいですが拾って貰ったお礼と口止めとして、この最高級干し芋を一欠片渡しましょう。そして名前を覚えて、しばらく監視をしましょう。  「ええ、大好物です。ハナさんと言うのですね。私は、ハム・ハム美です。お芋を拾ってくださりありがとうございます。コレ、とても貴重なモノなのです。お礼に少しですが、一欠片差し上げます……ほっ!そして、このお芋を持っている事、誰にも言わないで下さい!」  ハム美は早口で言いながら有無を言わさず、干し芋を千切ってハナの口に投げ入れる。  「んん!!……お、おいしぃぃい!!っむぐ」  「しっ!静かに!良いですか?内緒ですからね。」  あまりの美味しさにビックリして、大きい声を出したハナの鼻と口を、ハム美は慌てて全身で張り付いて抑える。  ハム美の気迫にハナは思わず息を呑む。……と言うより息ができない。  「……!んふふんふふ(わかりました)。んふふふふん(ごめんなさい)。ぷはぁ。」     「では、さようなら。」  ハム美はさっきの態度とは打って変わり、冷静な声色で挨拶を告げて、電動スクーターの方へ歩き出した。  「待って下さい!ハム美さん!私、ここに来てこんなに話しやすい動物さん初めてで、あの……その、良ければお友達になってくれませんか?」  「……!!」  ハム美は驚いて思わず足をとめる。  “ハム美()|ん”  “お友達になってくれませんか?”  この言葉が、ハム美の頭で繰り返し流れる。  私を、“ハム美|様”と言われても、親しみのある“ハム美()|ん”と呼ぶ動物はいませんでした。  生前、人間と暮らし数年、中間界に来てパワハラを受け数年、秘書になり敬遠されて十数年。  当然、親しいお友達もいませんし、こんな事を言ってくれる動物はいません。  馬鹿にするでもなく、ただ純粋に言ってくれてたハナさんの言葉に胸が暖かくなり、気がつけば目から涙が溢れ出ていました。  これが、ハナさんとの出逢いです。
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