ナイトルーティン(ルル)

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ナイトルーティン(ルル)

 仕事を終えてどうぶつ局の【お帰りゲート】の下で目を(つむ)り精神を集中させると、僕の意識は家で寝ている僕の体に戻る。  (ふぅ。今回も無事に戻ってこれた。)  ゆっくり目を開けると、部屋は真っ暗で静か。人間の家族は寝ているのだろう。誰かのイビキが聞こえる。  寝転んでいる自分の体をゆっくりと起こし、鉄格子でできた家の端にある水を沢山飲む。  (あ〜。生き返る〜。)  いつも仕事から帰ってくると、すごく喉が渇いているから、僕にとってこの水は「命の水」とも言える。  時々水が少なくて絶望するけど、そんな時は大抵「喉が(かわ)いた」と言いながら寝ている途中で起きてくる人間の姉が、ついでに僕の水も大量に補給(ほきゅう)してくれるので、なんとか死なずに生きている。  喉と体を(うるお)すと今度は尿意がくるので、15歳老犬の重たい体でトイレシートまでヨタヨタと歩き、最近足腰が弱くなり、足を上げておしっこができなくなったので、座ったままおしっこをする。  一通りのナイトルーティンが終わると、次は背伸びをして()り固まった体を(ほぐ)す。  僕は家をゆっくりぐるっと見廻(みまわ)し、異常が起こっていないか確認を終えると、もう一度背伸びをしていつもの定位置に体を丸くする様に寝転がる。  (よし、今日も仕事をする事ができた。ハナちゃんと普通に接する事ができた。明日は何を話そう。どうすればもっとハナちゃんは笑ってくれるかな。)  僕は仕事を終えると、毎日反省をする。  同時に、ハナちゃんが此処(ここ)に居ない寂しさと、仕事の時、目の前に居るのに神様との契約と制約のせいで触る事が出来ない悔しさ。仕事以外では会う事が出来ない悲しさが押し寄せる。  人間の家族は、僕がハナちゃんと会って仕事をしている事を知らない。  神様と契約と制約を結んでいる事を知らない。  そもそも、犬の言葉は人間には通じない。  ルルは今日も1匹、不安と悔しさを胸に泣きながら眠りにつく。
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