〜しゅっぱつ。しんこーう!〜

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〜しゅっぱつ。しんこーう!〜

 「どうだった?」とルルは目を輝かせてハナの次の言葉を待つ。  さっきまでグズグスに泣いていたのに、もう元気になっている。  これじゃあ4歳も離れているのにどっちが年上なのか分からないね。と思いハナはクスっと笑う。  「異世界には人魚はいるらしい。という話は聞いた事あるみたいだけど、残念ながら現世には人魚はいないみたい。」  「そっか〜。居てたら夢は広がったかも知れないね。異世界か〜。」とルルは残念そう言う。  「でも社長が言ってた通り、現世の人魚伝説の由来になった動物は存在するらしいよ。」  「へ〜。その動物は?」  「『ジュゴン』っていう凄く大きい海に住む草食動物らしい。」  「どれくらい大きいんだろうね。じゃあ早速取材に行こう!」  取材先が決まったルルとハナは、ハム美にジュゴンの取材に行く事を告げて書類を受け取り、社長が用意してくれたゲートの前で待っている翻訳担当のフッくんと合流した。  淡い茶色のふかふか羽毛に覆われているモリフクロウのフッくんは、ジーっとルルとハナを微動だにせず見つめている。  フッくんの独特な雰囲気にルルとハナに緊張が走る。  しばらく見つめ合うとフッくんは、目を細めて少し高めの声で独特な話し方で挨拶をしてきた。  「ホッホー。はじめましてマシテ。ボクはフッくん。どうぶつラジオ局の翻訳担当部長してるのですデス。」  「は、はじめまして。今回はよろしくお願いします。僕はルルで。」  「私はハナです。」  「ホッホー。うんウン。ルルとハナね。今回は日帰り旅行楽しみだねダネ!」  そう言うと、フッくんは首を回し翼を嬉しそうに羽ばたかせる。  「え、旅行じゃないですよ!私達は取材に行くんですよ!」  「ホッ!?聞いてない!キイテナイ!『最近、翻訳の仕事が忙しかったでしょ〜?プチ旅行で癒してきなよ!』って社長に言われてきたのだよダヨ。仕事じゃないか。ハメられた〜!」  フッくんは心底残念そうに肩を落とす。  「社長には困ったもんですね。私達もさっき唐突に『取材に行ってきてよ!』って言われたばっかりなんです。」  そう言ってハナはフッくんを(なぐさ)めた。  「日の出までに戻らないといけないから早速出発しましょう!もし時間が余ったら遊びましょ。」    ルルもフッくんを慰める。  「ホッホー!それだ!早速行こう!早く行こう!しゅっぱーつ。しんこーう!ホー!」  フッくんは元気になったみたいで、先にゲートに入って行った。  「早っ。切り替えはっや。僕達も早く行こう!」  そう言って2匹も薄暗いゲートに駆け足で入って行った。  「……。」  「……。つかないね兄さん。」  「……つかないね。はは。」  ゲートを入って10分。まだ着かないしフッくんの姿も見えない。薄暗いし真っ直ぐだけの道だから10分が長く感じる。  「普通さ、ゲートって言ったら一瞬で着くと思うじゃない〜?お姉ちゃんがテレビで観てたピンクの扉開いたら現地。みたいなさあ?」  ハナが駄々を()ね始める。  「憧れだよね。だって僕ら生粋の室内犬だし。ははは。」  「そう言えばさ兄さん。」  「ん?」  「昔公園に行った時さ、大きい犬と鉢合わせてパニックになって逃げた先で事故ったり、あんまりにも兄さんが可愛いから兄さんより体の小さい犬に襲われたり、他にも色々あってほぼ『犬不信』になってたじゃない?その……これからの取材大丈夫そう?」  「ははは。よく覚えてるねそんな事。」  ルルは恥ずかしそうに自分の耳を使って顔を隠す。    「正直、ハナちゃん以外の犬は実際に会うとトラウマがフラッシュバックして、多分またパニックになって逃げてしまうと思う。でも今回の取材。折角また2匹で行動が出来るんだもん。頑張るよ。」  「無理しないでね。私も頑張るよ!今回の取材。フッくんみたいに楽しんで行こうルル兄!」  「そうだね。楽しんで行こう!ジュゴンさんが良い動物だったらいいね!」  
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