〜 「「え。」」 〜

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〜 「「え。」」 〜

 話しながらしばらく歩いていると、淡い水色の膜の様なふわふわした壁に突き当たった。  よく見ると、淡い水色の膜の奥に小さい魚が泳いでいるのが見える。  「ホー!やっと来たね。待ちくたびれたよタヨ。多分このふわふわの中に入るんだと思う。ボクは翻訳に集中するからボクのことは空気だと思ってねネ。じゃあ行こー!フォー!」  どれくらい待ってたのだろうか。ルルとハナの返事を待たずにフッくんは先に膜の向こう側に行ってしまった。  「あ……。行っちゃった。すごいなフッくん、怖いもの知らずだ。得体の知れない壁に躊躇いなく入って行ったよ。」  「仕事終わりに遊びたい!って言う気持ちが大きいんだろうね。それにしても結構歩いたね。」  「そうだね。確か、日の出には帰らないといけなかったよね。ハナちゃん今何時?」  ハナちゃんは首に掛けているハム美に貰った懐中時計を一生懸命に読む。  「ん〜。今は……午前12時45分。確かゲートを通ったのが大体午前12時10分くらいだから……。35分程歩いたのかな?」  「そうなるね。日の出が午前5時10分だから。大体午前4時35分には帰りのゲートを潜らないとね。」  「それにしてもこの壁凄いね。すっごいふわふわ。今更だけど緊張してきた!」  「ぼ、僕も。き、緊張してきた。ど、どうしよう。あああああ。」  ルルの体は極度の緊張で突然全身が震えだし歯をガタガタと鳴らし始めた。  「え。やば。ルル兄、私より緊張してるじゃないの。」  ハナは自分より緊張してるルルを見て、急に心が冷静になった。  「ふっ。ルル兄。すっごい、すっごい震え方。あははは。し、深呼吸。深呼吸をしようルル兄。ホラ一緒に。ふーふー。」  「ふー。ふー……。はぁはぁ。ごめんハナちゃん。同種族の犬でもパニックになるのに何倍も大きい動物と喋れるのかって思ったら不安になっちゃった。ふぅ。」  「あははは。ルル兄があんまりも震えるから私の緊張がどこかへ飛んでいっちゃった。大丈夫。もしパニックになったら一緒に深呼吸しよルル兄。」  「ふー。ふー。ありがとうハナちゃん。行こうか。」  「うん。行こう!」  ルルとハナは目をつぶって、ゆっくりと淡い水色の膜に体を押し付ける様にして入っていく。  目を開けると一面淡い青色が広がっている。足下(あしもと)には大きいゴツゴツした岩や小さい岩白い砂があり、沢山の種類の海藻が広がり時々お花が咲いている。 ルルとハナの体は空気の膜で覆われていて、犬かきをすると移動が出来るようだ。  「うわぁ……。凄い綺麗。小さいお魚いっぱい。」  ハナは綺麗な景色にうっとりする。  すると、遠くからフッくんの声が聞こえて来る。  「おーい!ルルさんハナさーん!ここでーす!ジュゴンさん見つけましたー!」  「はーい!今行きまーす!」  フッくんの所に行くと、少し大きな取材対象の動物が見える。  「いよいよだねルル兄。深呼吸だよ。ふーふー。」  「深呼吸。ふぅー。ふぅー。」  ルルとハナは、ゆっくり取材対象に近づいて行く。  近くに連れて対象者が大きく見えてくる。  「お、大きい。ふぅー。ふぅー。」  思わずルルは固唾(かたず)を飲む。  「あ、あのー!ジュゴンさんでしょうか!私は『どうぶつラジオ局』のラジオパーソナリティのハナです。」  「同じく僕もラジオパーソナリティのルルです!」  「『人魚の由来』と言われているジュゴンさんに取材をしたくて来ました!」  勇気を出して話しかけるが、返事が聞こえない。 しばらく沈黙が流れる。    「ジュゴンさん。こちらは取材するにあたっての契約書です。私たちはどうぶつの神様の指令でここに来ました。本契約書はジュゴンさんにとって決して悪くない内容となっていると思います。是非一度、目を通して頂ければ嬉しいです。」  ハナは、ハム美に貰った契約書をジュゴンの前に出す。  ジュゴンは、ゆっくりと無言のままゆっくり契約書に目を通し終えると、ポツリポツリと話し始める。  「はぁ……。人魚なんて、人間の勝手だよ……。でもこの契約書……。死後、快適な天界ライフを送れるって書いてある……。うーん。」  「どうでしょうか。取材を受けてもらえるでしょうか?」  「うーん。仕方ない。快適な天界ライフの為。受けるよ。」  「やった〜!ありがとうございます!!」    「契約書は、少しだげ血液を付着させると契約書は飴に変化するので、その飴を飲み込むと契約完了です!」  ルルとハナは嬉しくて喜びの舞を踊る。  「ごくん……。喜んでいるところ悪いけどボク達ジュゴンは、そろそろ『人魚の由来の動物』って子孫に言い伝えるのを辞めようって話してる所なんだ。簡単に言えば『人魚辞めようぜ』って感じ?」  飴に変化した契約書を飲み込んだ後で、ジュゴンはそんな事を静かに言った。  「「え。」」    
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