闇、病み、ヤミー

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闇、病み、ヤミー

 「人魚をやめるって、それは……どう言う事ですか?」  ルルは戸惑いながらジュゴンに聞き返す。  「あー……。アンタたち知らないのかい?」  そう言いながらジュゴンは気怠そうにゴロンと仰向けになる。  「な、何をですか?」  ハナもドキドキしながらジュゴンに聞き返す。  「はぁ……。遥か昔、岩の上で休憩しているアタイらの種族【ジュゴン】を船の上から遠目で見つけて、人間達がアタイらを【人魚】って言い始めたんだ。アタイらは海で生息しているが、海の中で呼吸をしている訳ではない。5分くらいしたらこうして……ぷはぁ。海の上に鼻を出し呼吸をする。よっこらせ。」  ジュゴンは、会話途中に何度も陸に上がるのが面倒だからと、平面のある岩に上半身を乗せて話を続ける。  「はぁ……今の時代、人間達はハイテクな船を乗り回し簡単に世界を回る。他の動物達のウワサを聞くところによると空を飛んで色んな場所に行くんだってねぇ?」  「え、ええ。そうですね。」    ルルとハナは何が言いたいのだろう?思いながら相槌(あいづち)を打ちながら話を聞く。  「まぁ、何が言いたいかって言うとだね。知識や技術が発達した人間達は昔に比べて考え方が現実的になる訳だ。例えば、大きな一本角を頭に生やし、大きな翼のついた馬【ペガサス】や、死んでも蘇ることで永遠の時を生きる鳥【フェニックス】などはこの世には居ない。所詮(しょせん)人間が作り出した空想の生き物。今回アンタらが来た目的【人魚】だってそうさ。知識、技術が発達した途端、人間に何て言われたと思う?」  「……。」    (このジュゴンさんすっごくテンションが低いし、大分(だいぶ)心が病んでるんだけどどうしたものか。というかコレは怒っている?もしかして、してはいけない取材内容だった?)  「『全然人魚じゃないじゃん』『他の動物の方が人魚じゃん』とか何とか勝手な事を言ってきたのさ。勝手に見間違えといて勝手にガッカリされてさ。はぁ……。それだけだったならまだ良かった。」    「それだけでは無かったのですか?」とルルが聞き返す。  「そうなんだよ。(むし)ろ腹が立つのはここからなんだ。」  相当怒っているのだろう。ジュゴンは後ろの三角形のヒレを激しく水に打ちつける。  「最近、【これこそ人魚だ】って言われ始めている動物がいるのさ。その種族で1匹腐れ縁の知り合いが居るんだけど。ソイツがさ、もぉ〜とにかくすっごい腹が立つ奴で、【これこそ人魚だ】って言われる前から絡み方が至極(しごく)不快な奴だったんだけど、言われ始めてから更に悪化。」  「その【これこそ人魚だ】って言われてる動物は、何ていう種族なんですか?」  とハナが質問する。  「良くぞ聞いてくれた!【白イルカ】だよ。他の白イルカの性格は知らないけど、アタイの知ってる白イルカは本当に嫌なやつなのさ。」    怒っているジュゴンに質問すると、とばっちりを受けるのではと怖々質問したハナだったが、逆に褒められたのでホッと胸を撫で下ろした。
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