ハム・ハム美

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ハム・ハム美

 どうもこんばんは。私はゴールデンハムスターで秘書の、ハム・ハム美と申します。  神様兼、社長には「ハムちゃん」、会社のみんなには「ハム様」と呼ばれております。  私としては、(さま)()けより「ハム美さん」の方が(うれ)しく思います。ハナさんは唯一(ゆいいつ)この呼び方をしてくださいます。  (さら)に小さい体の私を馬鹿(ばか)にしないで、敬意(けいい)を払って適度(てきど)距離感(きょりかん)(たも)って接してくださるので、とても居心地(いごこち)が良く、私はハナさんが大好きです。  社長の秘書を始めて25年ほど経ちました。  秘書になる前は数年間(すうねんかん)、別の部署(ぶしょ)(はたら)いておりました。  誰が私をその部署に配置(はいち)したのかはわかりませんが、初めての配属先(はいぞくさき)は、下界(げかい)弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)世界(せかい)を生きてきた、体が大きい肉食動物(にくしょくどうぶつ)ばかり。  草食動物(そうしょくどうぶつ)もいましたが、みんな体が大きく少し(おび)えながらも肉食動物(にくしょくどうぶつ)対等(たいとう)仕事(しごと)をしておりました。  私の直属(ちょくぞく)上司(じょうし)は肉食動物で、言葉が乱暴(らんぼう)で教え方が(ざつ)、更に教えてもらった内容(ないよう)は体の小さい私には(むず)しい業務(ぎょうむ)ばかり。  道具の大きさが体に合わなくて、道具を変えてほしいと上司や他の先輩(がた)(うった)えましたが、「甘えるな、すぐ()れる。ぐずぐずしてないで早く仕事をしろ!」と迫力(はくりょく)のある形相(ぎょうそう)怒鳴(どな)られました。  当然、必死に努力をしても、仕事のペースは他の動物より遅く、遅くなるとまた(しか)られるの繰り返しで、最初は一緒に(おび)えていて(はげ)まし合っていた体の大きな草食動物の同期も、1年ほど()てば他の先輩方と一緒に私を嘲笑(あざわら)うようになり、時には嫌がらせをするようになりました。  私は下界(げかい)で生きていた頃は優しい人間に()われていて、野生(やせい)で生きてきた動物のような精神力もありません。嫌がらせがいじめに変わり、心ボロボロになりながらも、負けたくないという感情だけで働いていました。  重たくて、大きい資料を私なりに工夫して運んでいる最中でした。    目の前が一瞬(いっしゅん)ぼやけて、気がつけば私は床に(たお)れていました。  呼吸が苦しくなり、自分でも何がなんだか分からず、立ち上がろうとしても、体はピクリとも動かない。    この中間界(ちゅうかんかい)でも死ぬことはあるのだろうか……分からない。もし、死ななくて楽しみも何も無い世界で動けないままの体になってしまったら、私はこれからどうなるのだろう……。  何もわからない。他の動物の事、仕事、嫌いになった自分の体、涙の出し方、どうやって頑張ってきたのかも。  何もかもに疲れて、私は目を閉じました。      体がゆったりと揺れるを感じ目を開けると、とっても大きな(にわとり)の顔が視界一杯に広がっている。(おどろ)こうにも、そんな体力すらなかった。どうやら私はこの大きな(にわとり)(かか)えられているらしい。 「ああ、気がついたんだね。可哀想に……こんなに弱ってしまって。すまない。私の力不足だ。」 「あ、なたは……誰です……か?」 「私は、神様って呼ばれている者だよ。勝手に記憶を読ませてもらったよ。今までよく頑張ったね。」  優しく心地が良い、低い声が体に染み渡る。悲しそうに私を見つめる瞳。  記憶を読むことができるなんて……!!いやその前に神様!?   そんなお(かた)が.私にそんな優しい言葉をかけてくれる事に、流しかた忘れていたはずの涙が(あふ)れる。  すると、神様は優しくあたたかいふわふわの手で()でてくれた。 「ねぇ。君はなんていう名前?」    名前?そういえば、なんていう名前だったけ?あれ。下界に居た時に呼ばれていた名前があったのに。  ……っは!早く答えないと怒られる!  焦りと恐怖でまた涙が溢れ出す。   「ああ、つらい事を思い出させたかい?ふむ。みんなに名前を呼ばれなくて忘れてしまったんだね。」  本当に私の記憶を読んだんだ……。答えられない代わりに、首を(たて)にふった。 「じゃあ、私が名前をつけてあげよう!そうだな……ハムスター……毛が綺麗(きれい)だし、そうだ!“ハム・ハム美”はどうだろう?ハムちゃん!」  かなり安直な名前のような気がしなくもないけど、私に名前を付けてくれて、名前で呼んでくれるのが何よりも嬉しい。  私はまた頷く。 「うんうん。喜んでもらえてよかった。生前の名前はまた今度調べてあげるね。あ、そうそう。記憶を読ませてもらって思ったんだけどさ、ハムちゃん。」  何を言われるんだろう。不安で体が震える。 「僕の秘書にならない?」  ……ふえ? 「僕の秘書になってこの中間界が過ごしやすくなるように協力してほしいんだ。ハムちゃんのような子を増やさない為に。」 「私に、出来るでしょうか?」 「出来る出来る!ハムちゃんのアイデア力(りょく)素晴(すば)らしいよ!小さい体だからと(あき)めないで、工夫に工夫を重ねて仕事をして、時には小さい体を(おぎな)う事ができる道具を自分で作ったり、次はどんなものを作るのかな?って、こんなにワクワクした気持ちいつぶりだろう。」  本当にハムちゃんはすごいよ!!そう言いながら、ハム美をぎゅーっと抱きしめ、全体毛がボッサボサになる(ほど)()でくりまわした。  この中間界にきて、今までこんな言葉掛けてくれる方は居なかった、努力を認めてくれる事も、優しい話し方をする動物(ひと)も……。 「っありがとう……ありがとう、ございます。どうか…私に秘書という仕事をさせてっ…ください……。」  今まで頑張ってきたことを認めてくれた喜びに、神様の優しい言葉に表情に、行動に、私はこの(たましい)が消えるまで神様に仕えようと(ちか)い、 ハム美は泣きじゃくりながら必死に言葉を出した。  この時もらった言葉、名前を私は一生忘れません。    こうして私は神様の秘書になりました。    
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