おまけ1 ざけんな国号

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おまけ1 ざけんな国号

はいっ! どうも初めまして、崔浩(さいこう)先輩より ご紹介にあずかりました、李沖(りちゅう)です。 いや今回、自分のところに こんなお手紙が届きましてね。 「常々思っていたんですが、  五胡十六国って国の名前多すぎで  初心者が引くと思いました!」 確かにその通りですよねぇ。 例えば、三國志(さんごくし)慣れしてない人って、 曹操(そうそう)劉備(りゅうび)まではいいんですが、 孫権(そんけん)とか割とオーバーキャパなんですよね。 だって敵とも味方とも言えないんだもん。 ビックリマンのお守りかよ! 的な。 あんな可愛いもんじゃないですけど。 この間も「()とかマジでいらなくね?」 って言ってる人を見かけました。 あーいえ、分かりますよ呉クラの皆さん、 殺したいですよねそいつ。 ただ、考えてもみて下さい。そう言う、 「単純じゃない部分でギブアップする」層を 取り込めなきゃ、裾野広がらないです。 なら、そう言った人も取り込めるよう、 手立てを考えましょう! じゃ、以上を踏まえて、 五胡十六国時代に目を向けましょう!  ……無理ゲーじゃん……。 16ですよ。しかもこれ、 「多すぎるから、それっぽく見えるように  トップ16だけピックアップしたよ」 なんですよ。 なので、五胡十六国時代で遊ぶに当たって、 はじめから国号見るとキツいです。 飽くまで人物萌えに徹する。 で、いつの間にか国への理解が進んでる。 そう言う手順がいいと思ってます。 だから、ここから先は、 うっかりこの時代の国号に踏みこんで 死んじゃった方向けだ、と思ってください。 まずは十六国を挙げてみましょう。  前涼(ぜんりょう) 前趙(ぜんちょう) 成漢(せいかん) 後趙(こうちょう)  前燕(ぜんえん) 前秦(ぜんしん) 後燕(こうえん) 後秦(こうしん)  西秦(せいしん) 後涼(こうりょう) 南涼(なんりょう) 北涼(ほくりょう)  南燕(なんえん) 西涼(せいりょう) () 北燕(ほくえん) はい、覚える必要ないですよ。ここでは 「国がいっぱいだー覚えられるかよ死ね」 で全然問題ないです。 おもしろいモノは、 人間ほっといても記憶できます。 そもそも人間、七桁の数字記憶するのすら 割とアウトらしいです。 じゃ、それ以上の数字については どうすりゃいいんでしょうか。 どうにか関連づけて、物語にする。 そんな風に取り扱えばいいらしいです。 これって、いろいろ応用利きそうですよね。 なのでこの十六国たちを、 うまいこと物語に組みこめれば、 ……きっと、イケる、んじゃ、ない、かな! なのでここから、 「そもそもなんやねんこの辺の国号」 って話をしましょう。 ぶっちゃけますとね、 ほぼほぼ、ただの地名です。 近代現代だとイレギュラーも多いですが、 中世以前の中国史上の国名って、 驚くほど春秋戦国の地名に縛られてます。 この辺、たとえば高知県産の鰹が 「土佐がつお」 って呼ばれてるのを思い起こしてください。 そう言う感覚で、国名が呼ばれてます。 なので、まずはいわゆる 戦国七雄を確認すると話が早いです。           ・   __      ・・・・・・・燕 /  \  (涼)・  趙  ・  |  _      ・・・・・・ ・|/ /   ・・・・ 魏  ・  斉 |  ・   ・・・・・・・・・・\  ・ 秦  ・・・(・韓・)  楚     |  ・    ・         |  ・・・・・・・ ・・・・・・・|        ・・      / (おまけ。秦の南半分が蜀、  楚の東半分が呉って呼ばれてました。) 由来とかは気にしないでいいです。 「そう呼ばれていた」事が重要です。 燕は東北地方っぽい。 斉は山東半島。 真ん中は、上から順に趙、魏、韓。 南に広々と、楚。 西の外れに、秦。 こうやって認識することで、 国号理解がかなり早まります。 基本的には、このエリアで立ち上げられた 国だから、それぞれ名前がついてます。 そしてここに、例外が二点。一つは 「国号をぶち上げた奴の継承者アピール」 と言うもの。 分かり易い例は、(かん)。この国号の由来は、 劉邦(りゅうほう)が「漢中(かんちゅう)」の王に就いたから。 で、後漢劉秀(りゅうしゅう)、三国蜀劉備、匈奴漢劉淵(りゅうえん)は、 いずれも「オラこそが劉邦の後継者!」 アピールを皇帝就任の時に謳ってます。 あ、劉備は漢中王も名乗ってますね。 あともう一つありますが、 これは国号説明の中でやりましょう。 じゃ、この辺りを踏まえて、 五胡十六国諸国の国号を眺めてみましょう。 ・燕系  前燕→後燕→南燕、北燕   (→西燕) 燕系は、全て慕容(ぼよう)一族の国。 慕容皝が燕のエリアに割拠し、 晋から燕王の号をもらったことから、 その後の慕容たちが 「おらこそが慕容の正統継承者!」 と、この国号を上げてます。そのため、 どの国も「燕」としか名乗ってないです。 それじゃ混乱するから、 前後西南北で呼び分けたわけですね。 前後となってる二国が 正統性云々というより、規模が大きい。 南北燕は、後燕を我らが北魏が かち割った破片です。 ただ北燕については、 まさに燕エリアの国なので、 合ってる笑。 そして十六国に含まれない西燕は、 一応前燕の正統ですが、 いかんせん泡沫候補過ぎた。 ・趙系  前趙、後趙 やはり、どちらも趙としか名乗ってません。 これ、趙エリアに割拠した石勒に、 劉曜が「ケンカを売るために」趙とつけた。 ……そう考えるのが妥当でしょう。 そうです、これが、 国号をつける意図のもう一つ。 「お前と俺とは殺し合う運命」 的に決意し、国号をつける。 ちょっと意味分かんないですけど、 そう言うひともいたっぽいんです。 まー国号をぶち上げるって、要は 「俺がそのエリアのボスだ!」 ってことですしねぇ。 なお匈奴漢と前趙は、一応同じ国扱いです。 この辺りが分かりづらいんですよね。 こう言うふざけた前例を作った劉曜は やっぱり戦犯だと思います。 ・秦系  前秦、後秦  西秦 前後秦は、シンプルに立ち上げた地名。 国号は本来、共にただの「秦」。 ただし後秦の姚萇は 「ぼくは苻堅から禅譲を受けたよ!」 とか訳分かんないこと言いだしてます。 このひと苻堅のこと好き過ぎるので、 もしかしたら、割と本気で 「正統後継」ロジックで 国号ぶち上げてるのかも知れません。 西秦はこれ、ケンカ売りパターンですね。 後秦の隣で、秦王を名乗ってます。 やるゥ! 国力全く違うのに! ・涼系  前涼  後涼→南涼、北涼  西涼 えーと、涼系。 なんと言うんでしょう。ぐちゃぐちゃ。 と言うか実は、どこも割と国号不明。 前涼後涼はいいんですよ。 前涼は晋の属国でしたが、のちに独立。 涼州に立った王朝、だから涼。 後涼。呂光は涼の天王を名乗りました。 というわけで、当然ですが国号は「涼」。 けど、ここからがよろしくない。 南涼は「涼王」を名乗ってます。 が、国号不明。 後涼の南にあったから、「南」涼。 後日の人からそう呼ばれてます。 北涼は北魏から「涼王」に封じられてます。 南涼ともバチバチでしたので、 北魏としても涼州の皆様には 盛大にケンカして頂きたかったご様子。 怖ろしいですねー、北魏の外交スタイル。 ともあれ「北」の涼、ですね。 やっぱりこれも分類上の命名。 そして西涼。経緯を辿ると 「胡賊ども、お前らが涼を名乗んなよ」 と言う雰囲気が凄いです。 前涼の能吏の一族でしたので、 涼州を支えてきた自負があったんでしょう。 要はケンカ売りパターンです。 涼州諸国でいちばん目立ってませんけど。 ちなみに、わたくしの伯父さんの国です。 ・その他 成漢 成都で興った国だから、成。 のちに漢と改めました。 まとめて成漢と呼ばれてます。 と言うのも、李雄の息子(李期)から 帝位を簒奪した李寿。 彼は簒奪当時、漢中王でした。 漢中王から帝位に就くなら 漢しかねーだろ! と。 ただ十六国春秋は、容赦なく この国のことを「蜀」と斬り捨ててます。 うーん、この切れ味。 夏 赫連勃勃の先祖が、最古の国である 「夏」を建てた夏后氏であるため、 この国号にした、とのこと。 まぁ自称もいいところです。 最古の国の子孫と名乗ったり、 本拠に「万を統べる」統万城とつけたり、 赫連勃勃さん、ちょっと中二病すぎます。 (前仇池、後仇池) 仇池エリアに拠点を構えていた楊氏が、 ここで半独立状態を維持していました。 なので国と扱われたり扱われなかったり。 (冉魏) 梟雄冉閔の建てた国。なので本来は「魏」。 ただ、拠点は鄴です。 趙と魏は境界が曖昧なんですよね。 割と「好きな方で名乗る」雰囲気です。 (拓跋→代→北魏) さてラストは、やはり、我らが北魏。 もちろん国号は、本当は「魏」です。 ただ、三国魏に較べると、北に広かった。 なので「北」魏。 そして、そもそもなんで魏やねん、ですが、 実はここがよく分からない。 道武帝が代王から魏王と改称なさった頃、 本拠地は盛楽。思いっきり趙のエリアです。 むしろ趙より更に北にぶっ飛んでます。 ただ、三国魏のエリアでもありますので、 その意味では魏と呼べなくもないんですが。 その後正式な国号を決定するに当たり、 崔浩先輩のお父上、崔宏様が 「天下国家標榜するなら断然魏ですよ」 と仰り、魏で確定するわけですが、 この主張を見ても、 なんで道武が魏王を名乗られたのよ、 に対する答は返ってきません。 一応魏書では三国魏と縁が深かったから、 と言うことになってます。 ……が、名乗る理由になってます、これ? まぁ何というんでしょう、 ここまで語ってきて、まさか自分の国で これを叫ばなきゃいけないなんてね。 「ざけんな、国号!」 ……オチにする気はなかったんですよ? と言った辺りで、お時間となりました。 それでは!
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