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1.
オレは、サッカー部だ。別段うまくもないが下手でもなく、調子が良ければ活躍するし、悪ければそれなり。ただ、元々気の合う友人と示し合わせて入部していたため、オレ自身は楽しんでいた。
しかし、楽しんでいるから疲れも感じないかというと、それは別の話だ。肉体派の男性教師が担当だけあって、練習内容はなかなかにエゲツナイ。最高学年になったという責任からの気負いも、疲労の原因の一つだろう。
自宅は、小学校から二十分。同じ方向の友人ともすでに別れ、ダラダラ歩きながら道のりの半分くらい来たかなというポイントで、十字路をブロックに沿っていつも通り曲がる。
その時だ。
「礼央くん、お疲れ! ちょっと聞いてよ!」
待ち構えていたらしい幼馴染の千歌に捕まる。
楽しいことハンターとも言うべき、お調子者の千歌らしいウキウキしたセリフで、今日の終わりが、始まった。
空腹も最高潮、疲れ切ったこの時間に千歌のこの元気は一体何なんだろう。つい、喋り続ける千歌をしみじみ見つめてしまう。
話し終えて、直後。千歌も、オレのその視線に気付いたらしい。
「…何」
口を尖らせて突っかかってくる千歌。
「いや、千歌ちゃんはすごいなと思っただけ」
「…話、聞いてた?」
「聞いてたよ。見守り隊のおばあちゃんの名前でしょ」
通学路に毎日朝夕、小学生の登下校を見守ってくれている老人会のおばあさんについてが、今日の話題らしい。
毎日同じ位置に同じおばあさん(もしくはおじいさん)が立ってくれているので、顔見知りだった。しかし、オレは、見守り隊の方々の名前など全く知らないし、気にしたこともない。
「千歌ちゃんは、何で名前を知ってるの?」
「知らなかったよ。この間、偶然聞いたの。キミコさんって」
「そのキミコさんが、他の人にはケイコさんって呼ばれていたわけだ」
「そうなの!」
で、事件だとワクワクしながらずっとオレを待っていたらしい。
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