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雨夜伝
雨は降る。
どこであろうと、雨は降る。
狐が私たちと化かしたかのように、大事な日にはいつも雨が降る。
空はいつものように晴れ渡っているのにもかかわらず、空からは水滴が落ち、涙を流すかのように、ただ雨が降り続ける。
そんな中、私は自信を変えたくていつもと同じ神社に来ていた。
高い高い階段を上り、古臭い唐傘を持ちながら、私は神社の鳥居の前に立つ。
「はぁ」
雨に対する溜息なのか、それとも、この会談を上った結果による溜息になのか、私自身分からないものであったが、口の中から空気が漏れだす。
長い階段は雨に濡れ、滑りそうなのに、私は何事もなく昇って来て、いつものように神社にやってくる。
鳥居を抜けると、その先から空気が変わり冷たい空気から暖かい空気になる。
「やっと来た感じ……」
私はようやくそこで、いつもと同じ場所に来たんだと理解する。
唐傘から漏れる水滴は私の首筋に触れ、流れ落ちていくが気にせず、手水舎の方へと向かい、いつもと同じように杓子を受け取ると、水を救い、手にかけ洗う。手順を踏んで丁寧に、一手一手、済ませていく。
「………………」
そして、いつものように賽銭箱の前に向かうとする。
「?」
そう、向かおうとする。
だが気付いた。
変だ。
辺りを見るとなぜか急に暗くなっている。
『お前は何を望む?』
「…………え?」
すると頭の中に直接、声が響く。
聞いたことない声。いや、それ以上に人なのかもわからない声。
だけど、身体の奥底からその言葉に畏怖感を覚える。
「………………わからない」
小さく、おどおどしく、私はその声に返す。
すると、聞こえた声はまるで幻聴かのように、聞こえなくなる。
「なんだったの?」
私は、その状況を飲み込めないまま、辺りを見るがやはり先程と同じで空は夜のように暗く、砂のような星の数々が浮かんでいる。
「やっぱ、何も変わっていないのかな」
『いや、変わったよ』
私は降り続ける雨の中、呆然と立ちつくしていると再びあの声が私の頭の中で語り掛けてくる。
瞬間、私の目には驚いたものがあった。
そこには、黒いボロ布を纏った少年がいた。
「誰?」
私はそう思ったが、身体が勝手に動く。
その黒いボロ布を纏った少年に向かうと、私は、
「大丈夫? 君、そんなところにいると風邪ひくよ?」
少年に唐傘を差し出し、そう言っていた。
「…………だれ?」
「さぁ、分からない」
少年がそう言って私の方を見てくる。
だが私も私自身が一体、何なのかさえも分からない。
だからこそ、曖昧に言葉を濁し少年に唐傘を差し向け続ける。
「そう」
少年は静かに地面を見続けながら、小さく呟くと、少年は私が差し出した唐傘の入ってきた。
「僕はどうすればいいの?」
「えっ?」
少年は唐傘に入り、私に向かってこんなことを話しかけてきた。
私は、一体何なのかと理解できなかったか、雨に当たっているせいかすぐさま頭が冷える。
「一緒に来ない?」
気が付いた時には、私はそう言っていた。
少年は最初は不思議そうな顔で首を傾げていたが、私はそのような顔を見て小さく微笑してしまう。
「どこかおかしかった?」
「いいや、面白くて」
「ふぅん、変だね」
「いいんだよ。変で」
「…………そうなんだ」
「?」
すると少年は少しだけ笑ったように見えた。
おかしいと気付きながら、不思議だと思いながら、私は再び少年に話しかける。
「ねぇ、君、私と一緒に来ない?」
私がそう言うと、雨は止まず、景色も変わらず、ただ狐に化かされたかのように、砂と海水に照らされている少年のことを誘ってみていた。
これは一人の女性と少年の月夜の雨の物語。
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