聖獣界の異変と聖獣の王

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==========  アルメイラよりも北。カタル山脈に抱かれたカタル王都、その城はひっそりと静まりかえっている。  明かりを落とした一室には眼鏡をかけた青年と、まだ幼さの残る少年がいる。 「アルキード、本当にこの方法しかないの? 今からでも、兵を引いて」  柔らかそうな亜麻色の髪の少年は、大きく丸い緑色の瞳に不安を乗せて目の前の青年を見つめる。が、青年は辛そうな顔をしながらも首を横に振った。 「農作物の突然の病気、民の奇病。国庫に多少の余裕があるうちに手を打たねば、手遅れとなります。今がその、ギリギリなのです」 「でも!」  少年は言い募ったが、青年の意志は固く首を横に振るばかり。幼さの残る少年は今にも泣きそうな顔をした。 「アルメイラは今、王が代替わりしたばかり。軍部も一新されたばかりと情報が入っております。ほんの少し、無事な領土を広げられれば猶予が生まれます」 「話合いはできないの? 戦わなくても!」 「足下を見られます。そうやって、この国の貴重な金属や魔法石が何度も持ち出されました。資源は有限です。これ以上見合わない条件で搾取され続けたら、この国に資源はなくなってしまいます」 「でも……」  それでも少年は言い募った。が、そこに突如影が差す。月明かりを背にした長身の人物がテラスから室内に入ってくる。  癖の強い、背中まである燃えるような赤い髪に野性味のある鋭い紫の瞳をした美丈夫だ。黒いぴったりとしたズボンに袖のない黒い服を着た彼は明るい表情で室内を見回し、首を傾げた。 「およ? どしたアメル、泣きそうな顔して。アルに虐められたか?」 「ヴェリス」  赤髪の美丈夫を見た途端、アメルは堪えていた涙を薄らと浮かべて近づき、逞しい腰に甘えて抱きつく。それを受け入れた彼はアルキードを見て苦笑した。 「どしたよ、二人とも。アル、怖い顔になってるぜ」 「なんでもありません。それよりも、どちらへ?」  息を吐き、力を抜いたアルキードが眼鏡を押し上げる。その様子にも苦笑し、赤髪の美丈夫、ヴェリスラードはアメルの頭を撫でながら言った。 「ちょっと、気になる気配が近づいてたんでね、様子見」 「貴方が気にしていると言っていた、愛しの君ですか?」 「そっ。ただ、大分弱ってるみたいなんだよな。心配になるぜ」  呟き、ガシガシと頭を掻いたヴェリスは未だに腰に抱きついているアメルを見て、ふわりと抱き上げる。小柄で細身のアメルの足は地から離れ、軽々とヴェリスの肩に乗った。 「わぁ!」 「さーて、アメル! 寝ようぜ」 「あの、あのねヴェリス! 僕、まだアルとお話が!」 「明日にしとけって。夜はろくな考えが浮かばないって俺のお袋が言ってたぜ。大事な話はお天道様が登ってからな」  暗い空気など粉々にして吹き飛ばすようなヴェリスの明るい声に、アルキードは溜息をついて笑い、頷く。 「そうですね。では、この話の続きは明日と致しましょう。今日はもうお休み下さい」 「アル」 「アメル様、お休み下さい」  丁寧にした礼は臣下のもの。アメルはそれを寂しそうに見つめ、やがて頷いた。  出て行ったアルキードを見送り、ヴェリスに寝台まで運ばれ寝かされたアメルはこの日、なかなか寝付けないままだった。 【二幕 Premonition 完】
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