2.

2/2
前へ
/16ページ
次へ
「こんなのよ」と、生地を見せてくれた。  一見、単純に見える縞模様なのに、よく見るとたくさんの色が織り込まれている。 「きれいですね。こんな(しま)の制服っておしゃれですね」 「ほうやろう。ほや、織ってみるか?」 「え? 私、すごく不器用やから無理です」 「やる前から無理って言わんの。尻込みしてると、人生のチャンスのがすよ。ほらほら、ここ座って」  女の人は、島村さんといった。  私の背丈ほどある織り機に座らせる。 「はい、左足踏み込んだら、経糸(たていと)の間に、右から(おさ)を滑らせるんや」  足と手を同時に動かすように言われるが、なかなか脳から末端に伝達できない。 「お……おさ?」  おまけに専門用語を言われても、頭の中で文字変換しない。 「これのこと、シャトルね。この中に緯糸(よこいと)が巻かれてるんやわ」  年季の入った舟型の木製の梭を経糸の間にくぐらせる。なるほど、緯糸が一段加わる。  生徒は私だけなので、手取り足取り教えてもらう。 「だいじょぶやって。してるうちに体が覚えてくるでの」 「は、はい」  こうしたら、次はこうして、とわかっていても動作が連動しない。  運動音痴だし、車の免許もやっとこさで取った私には、無理じゃないかと思っていた。それでもやっているうちに、テンポがつかめてきた。 「ほら、できるようになってきたやろ?」  島村さんは、にっと笑う。つられて、私も笑ってしまう。 「はい、何だか楽しいです」 「あら、嬉し。楽しいのが一番やでの」  姿勢や動作のアドバイスを受けた。  島村さんは他のことをしながら、時々様子を見に来てくれた。  連動してリズムよくできるようになるとおもしろくなってきた。集中して無心に織っていると、悩みなど忘れられそうだ。  カタン シュッ トントン  カタン シュッ トントン  時計を見て驚く。もう夕刻になっている。 「ありがとうございます。やっと調子が出てきたとこやったのに」 「また、来たらいいわの」 「あ、そうか。また……また来ます」  駅に向かいながら、何のためにこの町に来たのか思い出した。  目的は果たせなかったけれど、来る時には無かった充実感があった。  
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加