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この世界はこんなにも美しい
空を見上げて、大きく息をひとつ吐いた。
視界いっぱいに広がる星空は、決して都会では見ることができないもので。
普段なら遥か遠くに、ぽつん、ぽつんと見えるそれが、手を伸ばせば届きそうなほど近くに思えて。
遠近感がくるったのか、軽い目眩さえ覚える。
そんな、どこかで聞いたような言葉が浮かぶぐらい、僕の思考はいつもと少し違っていた。
夜中のテンションのせいかもしれない。
いや。
生命の神秘を目の当たりにしたせいかもしれない。
そう思って、苦笑する。
今夜の僕はポエマーにでもなれそうだ。
目を閉じると、たどたどしいのに力強い泣き声や、小さくて軽いはずなのにずっしりと感じる命の重みがはっきりと思い出される。
今夜、僕はパパになった。
今、改めて実感する。
生まれてきてくれてありがとう。
そんな月並みな言葉しか浮かばないけれど。
パパとママのところに来てくれて、ありがとう。
心の底からそう思う。
本当はちょっとだけ不安だった。
僕なんかが父親になれるのだろうか、って。
お腹が大きくなっていくママを見ていると、ママはちゃんとママになっていっているのに、僕はパパになる準備が何もできていないんじゃないかって焦っていた。
でも君をこの腕に抱いた瞬間、大きな責任を感じるとともに、無条件の幸せも胸いっぱいに広がったんだ。
もう一度、星空を眺める。
ここはママの実家があるところで、君がこれから暮らす街はこんなにもきれいに星は見えないけれど。
君が生まれた日の夜空は、パパが今まで見た景色の中で一番素敵なものだったよ、って教えてあげたい。
「あっ!」
本当に一瞬だけ。
視界の端に光の線がスッと走った。
ーー流れ星だ。
初めて見たかもしれない。
なんだか、胸に込み上げてくるものがある。
こんなにもたくさんの星の中で、たった1つの流れ星をみつけたように。
この広い世界の中で、ママと出会って、君が生まれた。
その事実は、奇跡なんだろうか?
それとも運命なんだろうか?
どちらにせよ、とても幸せだ。
それ以外の言葉がみつからない。
きっとこれから大変なことや辛いこともたくさん起こるだろう。
子育てが楽しいばかりじゃないのは僕でもわかる。
それでも、この星空を思い出せば乗り越えていけるんじゃないだろうか?
そう思って、しっかりと目に焼き付けた。
fin
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