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分団長会議
会議中の皆がどっと笑った。安堵に包まれた瞬間だった。
「で。犬はどうなったの?」団長が訊いた。
「とりあえず毛布で包んで団員が抱いていました。かなり大きな犬でしたけどおとなしくしてましたよ。」
中島の話はこうだ。電線に引っ掛かっていた柳をチェーンソーで切り倒したところ信じられないことに犬が落ちてきた。枝が折れる『バリバリ』という音と一緒に降ってきたので落雷かと思った。だがコンクリートを打った音は「キャイーン」だったというのだ。折りしも土砂災害警戒情報が発表されており雷鳴が轟いていた昨日の話だけに団員が打たれたのではないかと冷や冷やしていた。
「ですが。」中島は言った。「逃げた犬は一昨日火災があった上中のお宅の犬だったのです。」
「それは」
画面から一瞬音が途絶えた。一昨日起きた上中の火災では家主と思われる女性が亡くなっていた。確か一人暮らしだったと思う。
「ですので犬は団員が預かっています。私はアパートですので。」中島が言った。
「ちょっと待って。」副団長が言った。「犬は保健所に連れてかなくちゃいけないんじゃないのかい。消防団が勝手に連れてくってわけにはいかないよ。」
「保健所」という言葉に皆が一斉に凍りついた。
「保健所っていうか市役所に。犬の登録やってるところあるから。環境総務課だったかな。」方面隊長が言った。
「預かってくれている団員はおばあちゃんのご近所で犬のことも知っていてご家族にも電話したんです。無理そうならこちらで飼ってもいいって言ってるんです。」
「それにしても」もう一人の副団長が言った。「保護団体とかもあるし飼うんだったら飼うで手続きとかがあるだろうから。」
「わかりました。」中島は答えた。
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