97人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ
だから、最初から壁を作っていたのだが。
「俺は、テツヤが好きだ」
「え?」
唐突の告白に驚いて、テツヤは目を見開く。
何の冗談だと言い掛けたが、痛い程に真面目な勝の眼差しに、そのセリフを舌に乗せるのは躊躇われた。
戸惑うテツヤへ、勝はゆっくりと両手を差し出す。
「どんなに俺がお前に本気なのか、少しだけでも解って欲しい」
「……」
「好きなんだ、テツヤの全部が。顔も性格も、その才能も。本当に全部が」
「……勝」
純粋で純情で、そして情熱溢れる勝。
見た目は、まだ成人してない少年のように可愛い外見をしているクセに、こんな修羅場に慣れている筈のテツヤをも圧倒する、勝。
そんな彼に、惹かれている自分の気持ちに、嘘を吐き続けるのは不可能であった。
「……でもお前は、俺の事を何も知らない」
「だから?」
「俺の中は、空っぽなんだ。ハリボテで表面だけごてごてに飾っているだけの、どうしようもない野郎なんだ。でも、お前は――」
「ずぐなし」
「?」
「怖がりって意味だよ」
勝は微笑みながら、差し出していた腕をテツヤの背に回して……。
◇
「? えっと、この先はどんな展開なんだ?」
白紙の原稿に困惑して、悠斗は、床に座ったままの涼真を振り返った。
ラブシーン、最低でもキスシーンを入れてくれと、オーダーされている。
そして悠斗は、根本的な事を見落としている事に気付いた。
最初のコメントを投稿しよう!