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そう言うと、悠斗は困惑した様子で逆に涼真へ訪ねた。
「え?……もしかして、むつくれるってお前は言わんの?」
「だから、何の事だ?」
「……もしかしてこれ、標準語じゃねーの?」
悠斗はそこで頭を抱えると、『またやっちまった――』と天を仰いだ。
そうして、自分の言った言葉を丁寧に説明する。
「むつくれるってのは、ちょっとだけへそを曲げている状態の事だ。だから、悪口じゃねーんだよ」
悠斗の父母は、東北出身だった。
夫婦そろってバリバリの方言を喋る訳ではないが、標準語に混じって時折り喋る言葉が方言だったものだから、余計にタチが悪い。お陰で悠斗の喋る言葉は、方言と標準語が混じっているハイブリット言語と化していた。
「直すようにはしているが、何が良くて何が通じないのかイマイチ分かんねーんだよな。ニュアンスで通じる時もあるし……まぁ、そんな話はどうでもいいか。とりあえず今日は解散だな」
今まで散々揉めていたこの場所は、喫茶店だった。
近くには文夏社が入っているビルがあるので、打ち合わせるには丁度いいとよく作家や編集者が使っている。
自宅を訪ねて来た中河から、不躾に『この小説のコミカライズをお願いする事になりました!』と宣言され、急遽この場所を打ち合わせに指定して、右近涼真を呼び出したのだ。
今まで結構な大声を上げて揉めていたわけだが、他のテーブルでも同じように揉めている作家がいたりするので、ここではそれ程目立ちはしない。
店側も慣れたもので、特に気にする様子もなくオーダーを取っていた。
去り際に、悠斗はボソッと呟く。
「それより……悪かったな。こんな所まで突然呼び出したりしてよ。あんた、かなり忙しいらしいじゃないか」
「――――その菓子は、全部お前にくれてやる」
「は?」
噛み合わない会話に、悠斗は怪訝な顔になって振り返る。
すると涼真は、どこか切羽詰まった様子で口を開いた。
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