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つまり、過剰な演出はしたくないという事か。
漫画を描く場合は、まずは絵で読者の目を惹き付けるために、有り得ない角度やオーバーなセリフを入れて作画する事も多いのだが、小説は逆のようだ。
涼真の言うリアルがどういうものなのか、悠斗は初めて興味が湧いた。
そして、こんなもの冗談ではないと断言した件のBL小説も、ちょっとだけ読んでみるのもいいかもと思った。
――――まぁ、作画を担当する以上は、何がなんでも原作に目を通さねばならないワケだが。
悠斗はゴホンと咳払いをすると、手にしていた湯呑を一人用の小さな座卓へコトンと置いた。
「……コミカライズする本、なんとかラマンだっけか? 仕事だしな。俺もちゃんと読んでみるか」
「結構だ」
「そうそう、俺もプロだし。原作と協力して――」
と、言い掛けて、ハタと気付いた。
コイツ、いま何と言った?
「おい、コミカライズするって話の事だぞ?」
上目遣いに睨み上げると、涼真も負けじと睨み返してきた。
「コミカライズなら承知しているが、僕はまだ、君の漫画も見ていないんだ。僕の世界観をちゃんと描き切れるかどうかも分からない人間に、易々と僕の大切な作品を委ねるなんて出来ない」
「な、何だと――」
「今回の話は、文夏社から新しく発行されることになったBL誌の創刊号について、マリサ社長から直接打診されたに過ぎない。僕はまだ、それについては正式なGOサインは出していない」
「何だそりゃ!」
それだったら、あの新人編集の中河静流は、一体なんで悠斗のアパートまで来たんだ!
コミカライズの話はどこまで本当なんだ!?
第一、まだ原作者の正式な許可が出ていないだと?
これでは、フライングもいいところではないか!!
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