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「岸さん~幾ら創立したばかりの会社に加えて、創刊号準備でバタバタしているからって……!」  ここまで作家を混乱させるような現場など、あってはならないことだろう!  即電話して抗議と恨み言を述べようとしたが、真剣な顔の涼真に気付き、その手は止まった。 「何であんたは、怒らないんだ?」 「怒る?」 「中途半端な話を持って来られることが一番ムカつくだろうが。俺は全精力を注いで漫画を描いているんだ。部外者に、これが簡単にできる事だと思われるのは許せない。岸さんは前の出版社でもお世話になった人だから、あの人はちゃんとした人だってのは分かっている。きっとどこかで、行き違いが生じているに違いない。だから、まずは岸さんよりも、もっと上の奴等にガツンと言わないと。そうだ、編集長の名刺も貰っていたな……」 「そこまで判っているなら、怒る事ではないだろう」 「何だ、あんた? 俺の事をたんぱらだって言いてぇのかっ」 「たんぱら――?」 「マリサ社長に直接電話するのも良いな。いつも向こうから突然かけて来やがるから、たまにはこっちから掛けてやる。ったく、あのおなごは――」 「ちょっと待て、“たんぱら”と“おなご”とはどういう意味だ?」 「は?」  ムッとして睨んだが、どうやら本気で分かっていない様子の涼真に、悠斗は毒気を抜かれて溜め息をついた。 「ああ、そうか――分かんねぇか」  ついつい標準語のノリで言ってしまったが、確かにこれは方言だったなと気付き、悠斗は、自分より頭一つ分低い位置にある涼真の顔を見て口を開く。 「『たんぱら』ってのは、短気とか怒りっぽいとかって意味だ。『おなご』は女だな。どうだ? 分ったか?」 「ああ、成程……何となくニュアンスは通じているな」  そう呟くと、涼真はすかさずメモを取った。  今すぐにでも怒鳴り込みに行きたいと思っていた悠斗であるが、全く動じた様子の無い涼真を見ていると、その勢いも自然に()がれてしまった。
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