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とにかく頭を冷やそう。
今は、ここで涼真に怒っても仕方がない。
悠斗が漫画を描くことは決定事項のハズだが(なにせ、マリサ社長直々のオファーだったのだから)しかし、どこかで行き違いがあるようだ。
今一度冷静になって、出版社との契約内容を細かく擦り合わせる必要があるだろう。
これから編集部へ電話をするのもいいが、向こうも今日はバタバタしているハズだ。
(……だよな。あの派手好きな社長の事だ、絶対に飲み会くらいはやってそうだ)
そんなトコロへ、仕事の話で水を差すのは気が引ける。
電話は明日でもいいか。
――――と、そんな事を考えていたら、涼真がボソッと口を開いた。
「言っておくが、僕の小説を漫画にする件には……了承している」
「あ――ああ、そうなんだ? 俺はてっきり、全然その話が無いのかと思ったぜ」
ひとまず胸を撫で下ろすが、同時に怒りも湧いて来る。
(それなら何故、あんな誤解されるような言い回しをしたんだ?)
不審な顔で涼真を見たところ、真剣な眼差しが返ってきた。
「だから、まずは君の絵を見せてくれ」
「は?」
「僕は、絵は全然描けないが、それでもキャラクターのイメージはしっかりと持っているんだ。だから、作画担当の人には、僕の世界観を描き現わせるだけの、実力のある人にお願いしたいと思っている。マリサ社長にもその旨を伝えていたが、先に君の方が現われてしまって――――僕はまだ作画の描いた絵を見せてもらってないんだ」
何だ。それなら、やはり自分が打ってつけではないか。
チーフ・アシスタントとしてキャリアを積み、プロの漫画家としてデビューもしている。
連載だけは、未だ獲得に至っていないが。
(増刊号の読み切りは結構描いたが……ま、知らねぇか)
……まぁ、そういうワケで漫画家としたらほぼ無名状態に近いので、左文字悠斗の名前も絵も涼真が分からないのは当然かもしれない。
(う~ん。考えてみたら、原作者としては絵を見せてくれってのは当然かもな。それにしても、ソコが肝心だろうに――ったく、グダグダだなぁ。この編集部大丈夫か?)
悠斗は舌打ちをすると、机の上にあるパソコンを指差した。
「あんたのパソコン、開いてみろよ」
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