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 言った事は、本当の事だ。  今はデジタルを専門に扱う出版社も多い。  だから、悠斗が何も特別なケースな訳ではない。  その事を改めて説明するかと口を開きかけたところ、涼真はスッと視線を逸らした。 「――そうか、悪かった。僕の勉強不足だったな」  出鼻をくじかれ、悠斗はもごもごと口を動かしながら「分かったならいい」とだけ言う。  気に障ることを喋ったかと思ったら、素直に反省する。  まったく、これでは調子が狂う。  こんなタイプの男とは今まで接点がなく、仕事でもプライベートでも付き合った事が無かったので、悠斗は対応に困る。  頭をガシガシ掻きながら仏頂面でソファーに座る悠斗であるが、実は、対応に困っているのは涼真も同じだった。  小説家は、孤独だ。  漫画家はアシスタントの他に編集者も交え、チームを組んで仕事をするが、小説家は違う。  ただひたすらに、たった独りで、文字を使って紙面に己の世界を築き上げる戦いを繰り広げるのだ。  時には、取材に編集者が同行する事もあるが、結局書くのは作家本人であり、やはりたった一人の戦いだ。  そのを、視覚に移る世界に変換して紙面へ築くという。  それは、涼真の知らない、全くの新しい世界への試みだ。 ――――デジタルで映し出される悠斗の世界は、キラキラしていて心が躍る。  この絵で自分の世界が表現されるのは、正直に言ってとてもワクワクする。  しかし、こんなに綺麗な世界なのに、そこに登場する人物は恐ろしく空虚に感じるのは何故だろう?  それを考え、涼真は一つの答えを見つけた。 「成程……君は、他人の目を気にし過ぎているんだな」 「なに?」 「それなら分る。僕も作家だからな」  涼真はそう言うと、初めてふわりと微笑んだ。
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