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一緒に組まないかと誘われた事は何度かあったが、それはテツヤの腕を買ったというよりは、潤沢な資金元を期待しての事だった。
テツヤを誘ったメンバー達が裏で色々言っていたのが耳に入り、それきりテツヤは誰とも組まずにいる。
(……もしかして勝も、俺に財布になって欲しいのか?)
過去の苦い記憶がよぎり、テツヤは険を含んだ眼差しを勝へ向けた。
「正直に言えよ、怒んねぇから」
「え?」
「バンドは金が掛かるからな。俺に援助してもらいたいんだろう? それならそうと最初から言えよ」
「なに言ってんだ?」
「いーぜ? 確かに俺には、金が幾らでもあるからな。同じアパートのよしみもあるし、援助してやるよ」
そう冷たく言い捨て、踵を返そうとしたテツヤの頬に、衝撃が走った。
“パンっ”
それは、勝がテツヤを平手打ちした音だった。
痛みよりも“叩かれた”事に驚いて、テツヤは、自分より頭一つ低い位置にある勝の顔を見る。
「お前……」
「何様だと思ってんだよ、生意気な事言ってんじゃねーよ!」
◇
「そこは『えれえさまのつもりが? かばすぐねぇこと言ってんじゃねーよ!』だな」
涼真が『勝』のつもりで喋ったセリフに、悠斗はそう修正を入れて来た。
ここは勝が激怒している場面だ。
お国言葉が出るのは必然だろう。
そう助言したところ、涼真は「う~ん」と首をひねる。
「やはり、独特の言い回しだな。……方言のWはワザとらしくないか?」
「そんなにヘンか? このくらいなら、今でも使っているのをよく聞くけどなぁ」
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