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だが、確かに、標準語混じりの中での方言多用は違和感があるかもしれない。
年配者ならともかく、今時の若者はそんなに方言は喋らないのだし。
そう考え直し、悠斗は「なら、ここはかばすくねぇだけ残すか」とペンを走らせた。
涼真はパソコンへ文字を打ち込みながら、得心したように笑む。
「すまない……やはり、身近に相談できる相手がいるのは助かるな。最初は方言学を専攻している友人に手伝ってもらおうとアテにしてたんだが、学者というヤツは何でも自分の事が最優先で……」
そのセリフに、悠斗は顔を上げた。
「あ、そういえば、そんなこと言ってたな……男? 結構仲がいいヤツ?」
「ああ。僕の、数少ない友人の一人だ」
「ふーん」
涼真に友人がいるなど、どうでもいい事だ。
普段であれば気にもしないだろう。
だが、何となく面白くないような気がして、悠斗はそんな自分に首を傾げた。
(ん? どうして俺はムカムカしてんだ?)
悠斗は眉間にしわを寄せながら、言いようのない感情に困惑する。
しかし、意識を切り替えるように咳払いをすると、床でパソコンに向かっていた涼真を振り返った。
「――で、これでプロットの統合は成功で良いか?」
「ああ、問題ないだろう。第一稿は、勝とテツヤが言い合いをして睨み合う……で、次回に繋げられる。そっちは、ここまでの話で原稿を埋められるか? 僕は漫画の事はよく分からないが」
涼真の問い掛けに、悠斗はニヤッと笑って答えた。
「余裕。ネームにして、三日以内に上げてやるぜ」
ようやく自分のペースを取り戻すと、悠斗は得意げに胸を張った。
「何ならこのまま主線まで進めて、担当に突き付けてやるのもいいかもな。ペーペーの中河も、ベテランの岸さんも驚くんじゃねーの?」
さすがにネームを通さずにそこまで進める事は無茶だが、この時の悠斗は、何故か涼真の前で格好を付けたくてそんな事を口にしてしまっていた。
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