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今や、勝とテツヤの織り成す世界は、涼真の中でしっかりと形成されている。
特に、一途で真っ直ぐなハートを持った勝とは、一心同体だ。
それなのに、あっさりと翻意した悠斗の態度には不信感を覚える。
(僕達は、昨晩は完全に同調したと思っていたのに……見損なったぞ。権力の犬め)
涼真は憤慨して、ガタっと椅子から立ち上がった。
「これ以上僕の世界観を否定するなら、今回の話は白紙にしてもらう」
「ちょ……右近先生! どうか冷静になってくださいっ」
取り成そうとして、慌てて立ち上がる岸と中河を無視して、涼真は靴音も高くその場を去って行った。
残された岸、中河、悠斗は互いの顔を見合わせると、深々と溜め息をつく。
そうしながら、岸は『配慮を欠いた』と反省のセリフを口にした。
「つい、通常の編集者のつもりで進めてしまった。こっちが無神経だったな。右近先生は、基本的にご自身の作品は単行本で発表する人だった。雑誌連載はこれが初だという事だし、しかも漫画となると……勝手が分からないも当然か」
岸が唸るように言うと、中河がプンプンしながら口を開いた。
「でも、いくら小説家の大先生だからって、聞く耳無さ過ぎじゃないっすか? オレたちは真っ当な事を言ってるだけでしょう」
「人それぞれだろう。自信満々で持ち込んだ原稿にアヤを付けられたと感じたんだろうな。言葉を選ぶべきだった」
中河と岸の会話を聞きながら、悠斗は大きく息を吐いた。
そして、机の上に広げていたネーム原稿を纏めると、ゆっくりと立ち上がって頭を下げた。
「――じゃ、一度戻って直しを入れてきまっす。完成次第メールで送るんで、その時は改めてチェックよろしくです」
「あ、ああ」
「左文字先生、ご自宅へ戻るんですか?」
中河がそう訊ねたところ、悠斗は唇を歪めた。
「……いいや。多分あいつは社員寮に向かったはずだ。だから俺も寮の方へ行く」
そうだ、涼真の性格ならばへそを曲げて自宅へ戻るなど有り得ない。
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