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頑固な子供のように怒ってはいたが、右近涼真はプロの作家だ。
自分の携わった作品を放っておいて逃走するような無様な真似などしない筈だし、もしもそんな事をしたら、それこそこっちから縁を切る。
それが本当の、プロのプライドってもんだろう。
(さて、どっちに転ぶかな)
◇
「これで、どうだ!」
文夏社社員寮【おひつじ寮】に戻り、ガチャリとドアを開けたところ、そのセリフと共に原稿を突き付けられた。
見ると、涼真が仁王立ちで、ドアを開けたままの悠斗の目の前に立っている。
「直してやったぞ。文句があるなら言ってみろ」
悠斗は内心で『賭けは勝ったな』と頷きながら、その原稿を受け取った。
そして安堵したのを悟られないように、さり気なく口を開く。
「まぁ、とりあえず中に入れさせてくれ」
「わ、分った」
何やら緊張した様子の涼真に、思わず悠斗は吹き出しそうになる。
それに気付き、涼真は柳眉をピクリと反応させた。
「なぜ、笑う?」
「いや……なんかアンタって、俺が想像していた以上に真面目で純だなって」
「堅物なのは自覚している。君に言われるまでもない」
「――で、予想に反して、熱いハートの持ち主なんだなってさ」
悠斗のセリフに、どうやら涼真はバカにされていると感じたようだ。
憤慨した様子でフローリングに置いたままのクッションに座り込むと、忌々し気に吐き捨てる。
「あんな事で怒り出すなんて非常識だと、僕を揶揄いたいのか? だが、テツヤと勝が固い絆を結ぶ大切な初回だぞ。それなのに、なにがラブシーンだ、最低でもキスシーンだ? そんな三流ポルノのような安っぽい作品になどしてたまるかっ」
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