5

6/11

97人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ
 彼等は雑誌のコンセプトに合わせて内容を変更し、その中で最良の作品を創らなければならないのだ。  大雑把な依頼を受けて、好きなように小説を書いていた自分とは違う苦労があるのだろう。  その事に、もっと寛容になるべきだった。 「ありがとう」  ホッとして、握り締めていた原稿を机へ置いた悠斗の背に、床に座ったままの涼真が声を掛けた。 「だが、訂正させてもらおう。名作なのではなく、から名作なのだ。そしてこれも前言撤回になるが、僕は三流ポルノも嫌いじゃない」 「っ!?」 「僕は、昔のカストリ雑誌も収集している。低俗で卑猥で淫靡なそれらは、作品作りの良い資料になる。僕にとって、人というものの本質を知る手引書のようなものだ」  涼真は、この性格故、他人と深く係わった事がほとんど無い。  昔から、生身の人間に対して淡白な所為か、恋人とも長くは続かない。  またそれを、寂しいと思った事も無い。  涼真にとって大切なのは空想の世界であり、そこに棲む架空の住民達だった。 「今まで僕は、彼等にたくさん恋をして来た。いまも恋をしている。だから、彼等をこのまま見捨てるわけには行かない」 「あんた――」 「今の僕にとって、世界の中心は勝とテツヤだ。彼等の恋を応援したいと思って、ここに踏み止まった」  小説家は、孤独だ。  基本的に、たった一人で真っ白な世界に挑み、そこに文字で世界を創り上げる。  目に見える物など何一つないのに、有るものとして書くのだ。  だが、今回は違う。  昨夜、悠斗が描いてくれた勝とテツヤのイラストを見て、心にポッと花が咲いた。  体の中心に、火が点った。  だから―――― 「君が頭を下げなくても、僕は彼等と心中するつもりだ」
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加