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胸の内を吐き出し、涼真は悠斗を見上げた。
「僕はテツヤに触れていたい。孤独な彼を癒してやりたい。だが、僕はっ!」
「――――あんた……」
唖然として、悠斗は涼真を注視する。
何という事だ。
どうやら涼真は、自身が生み出したキャラクターと完全に同調し、そのキャラクターに憑依して執筆するタイプの作家であったらしい。
昨日から何となく感じていた違和感はこれであったかと思い至り、そして納得した。
(道理で、やたらと勝とテツヤのやり取りに拘るわけだぜ。大切に作品を育てるタイプの作家なのかと思っていたが、そうじゃなくて、キャラと一緒に成長する方だったって事か)
右近涼真という作家について、中河が言っていた事を思い出す。
『右近先生の書く小説は、空想の世界と括るには異常なんですよね。本当に、物語の登場人物達がそこに実在しているかのようにリアリティに溢れていて、完全に架空から逸脱しているんですよ。その所為か、キャラが死んだ時なんか本当に悲鳴を上げて泣き崩れるファンも多くて、とうとう葬式を上げたファンもいるんです。これ、嘘じゃないですよ』
それ、絶対盛ってんだろうと、内心バカにしていたが。
『全体的に作品の内容が重いものが多いので、ちょっと手を出しづらいのがネックなんですが。でも、ズッポリとハマったファンなんかはもう右近教の信者って感じですよ。先生の書く小説はどれも現実味があって他人事とは思えない、絶対泣けるって』
成程、熱く推すファンが多いのも頷ける。
毎回これだけの熱量で作品を書いているなら、それは魂が確実に宿っているんだから。
「参ったなぁ」
「え?」
「こんだけ、差を見せつけられると落ち込むぜ」
そう呟くと、悠斗は苦く笑った。
異世界転生、なろう系、悪役令嬢に、下剋上。
その時々に流行っている人気ジャンルに手を出して、受けそうなキャラクターを描いて。
安パイに、万人に好かれそうなストーリーを考えて。
毎回そんな話ばかり描いていたが、悠斗の心に残っているキャラは誰もいない。
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